参 青海波

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 雛千代と入れ替わる形で俺の元へ現れたのは栄斗だった。途中ですれ違った雛千代のことを目で追いながらこちらへ歩いて来る。前を見ないと転ぶぞ。 「おい、おい晃一! 今の! 今の見たか! 舞妓さんだ!」 「芸妓だと言っていたぞ」 「は!? オマエ会話したの!?」 「少し」 「えー、いいなぁ」  続いて、美幸と日和と合流する。 「晃一のやつ芸妓の人とおしゃべりしたらしいぜ!」 「えー! いいなぁ、こーちゃん」 「意外と会えないっていうよね。いいなぁ」  いいなぁ、いいなぁ、と三人に囲まれる。彼女が神使であることを三人に話すことはできないので、俺は修学旅行で訪れた京都の神社で偶然出会った芸妓と会話をした羨ましいやつになってしまった。  いいなぁ、の声でようやく目を覚ましたらしいひよが「八坂神社ですね!」と声を出した。何やら解説をしてくれているようだがもう遅いし、三人の声に被っているのでよく聞こえない。  俺は三人を宥めて、宥めて、なんとか宥めて歩き出す。少し行くと、楼門のところで観光客らしき中年女性のグループに雛千代が掴まっているのが見えた。適当にあしらった雛千代は、俺の気配に気が付いたのか少し振り返ってから境内の外へ出て行った。  神使の鳩に出会ったが、御神木はここにもなかった。茅が探してくれと言う御神木はどのようなもので、どこにあるのだろう。 「朝日様、御神木はここにもなかったようですね。……茅様、京都で探せとは言っていませんでしたが……」  まさか三日目の奈良や四日目の東京でも探さなければならないのか。その可能性は無きにしも非ずだが、俺達の行程を茅は知らない。それに俺の修学旅行が御神木探しで終わってしまう。  そもそも、茅の言っている御神木は本当にあるものなのだろうか。もしも、ただからかわれているだけだとしたら。軽薄そうなミラーレンズサングラスの男が頭をよぎる。あの見た目だとそういうこともして来そうだが、自分の仕事場の神社でそういうことをして来るだろうか。さすがにそれはないと思いたい。  次の目的地は抹茶パフェ! と言って意気揚々と先陣を切った美幸に続いて、俺達は八坂神社を後にした。
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