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今日行った場所の感想を言い合ったり、写真を確認したり。そんなことをしながら食事をして、やがて鍋は空になった。美味しかった。改めてありがとう、美幸。
会計を済ませ、俺達は店の外に出る。後はお土産屋を物色したり街並みを眺めたりしながら歩き、門限までにホテルに戻る予定である。
お腹いっぱいだね、などと言い合いながら地図を見ていると何かの視線を感じた。肩に乗ったひよが小さく悲鳴を上げたような気もしたので、非常に嫌な予感を覚えつつ視線を感じる方を見る。
「朝日君、どうかした?」
「いや……」
店表の路肩に車が一台、路上駐車していた。普通の車ならばよかったのだが、それは自動車ではなくて牛車だった。しかし牛はおらず、向こう側が透けているように見える車だけである。そして、人の代わりに巨大な頭が乗っていた。俺以外の三人も、道行く人々も路上駐車の牛車など全く気にしていない。これは妖怪だ。
車に乗っている頭と目が合う。
「目を合わせちゃだめですよ。こちらが気が付いていることに向こうも気が付きますから」
「悪い。もう合った……」
「……え」
頭がにやりと笑い、牛車の車輪がその場で回って唸り声を上げる。まさか突進してくるつもりなのだろうか。みんなを巻き込むわけにはいかない。
「あ、あわわ、あ、朝日様ぁっ! ど、どどどどうしましょう!」
あそこのお土産屋さんを見たい! という女子二人の声がひよの叫び声に混ざりながら聞こえて来た。それならば、そちらは栄斗に任せてしまおう。
「栄斗、美幸と日和を頼む。俺は気になっている店があるからそこを見て来る」
「オマエにもそういうのあるんだ。その店俺も気になるなぁ」
「先に行って様子を見て来るから、おまえは二人に付き合ってやってくれ。それじゃあ」
返事をする時間を与えずに、俺はその場から立ち去る。俺が動くと、頭を乗せた牛車は急発進して追い駆けて来た。肩の上でひよが悲鳴を上げる。
牛車に急旋回はできないと仮定して、角という角を適宜曲がりながら距離を取る。しかし、相手はある程度の長さの直線に入る度にその速さを以てして俺との距離を詰めて来た。
「ひよ、あれは」
「たぶん朧車です。うぅ、ぼく目が回りそうです……」
「我慢しろ。喰われたいのか」
「それは嫌です……」
提灯やネオンが光る先斗町の路地を進む。
狭い道に入れば大丈夫かと思ったが、名前の通り実体が朧なのか建物に接触どころか食い込んだまま追い駆けて来ている。どうやら俺はとんだ暴走族に目を付けられてしまったようだ。
何とかできないのかとひよに問うと、泣き声だけが返って来た。いざという時に頼りにならない護衛である。相手が悪かったのかもしれない。もっと小さな妖怪であればヒヨコでも対処できただろうに。
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