壱 奈良へ!

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壱 奈良へ!

 修学旅行三日目。二泊した京都のホテルを離れ、俺達は奈良へ出発した。これから向かう先は奈良だが今日の宿泊先は奈良ではなく、東京である。スーツケースは俺達より先に東京のホテルへ向かい、一日目と二日目で買ったお土産等は北海道へ運ばれる段ボール箱の中だ。  奈良へ向かうバスの中、ひよは今日も俺のリュックのサイドポケットに収まっている。俺と共に京都から奈良、東京へと移動するのは大変そうだな。小さなヒヨコにとって大移動と過密スケジュールはやはり負担なのか、乗り物に乗っている間は眠っていることが多い。  俺はクラスメイト達の雑談を聞き流しながら車窓を流れて行く景色を眺める。  すっかり京都からは離れてしまった。茅が探せと言っていた御神木が京都にあった場合、もう探すことはできない。請け負ってしまったものを反故にすると祟られるかもしれない。もしもの時は紫苑に助けてもらおう。助けてもらえるだろうか。  他に気になるのは、昨夜のひよの様子だ。奈良へ行くことに関して何か思うところがありそうだった。以前、奈良で何かあったのだろうか。あの反応の仕方だとあまりいい出来事ではなかったのだと思われる。嫌なことでもあったのか、苦手な人がいるのか。小学生のような見た目をしているが、過ごしてきた時間は俺よりも遥かに長い。外見から想像されるよりも多くの経験をしているはずである。  ふとリュックを見ると、ひよと目が合った。寝ぼけているのか、「ぴぃ」と一声鳴くと再び目を閉じて眠ってしまった。  薬師寺に着いたら起こしてやった方がいいかな。 「なあ晃一ぃ」 「なんだ」 「奈良に着いたらどこ行きたい?」 「どこって……」  奈良は一日目と同じように全員で行動することになっている。行先は決まっており、好きなところへ行けるわけではない。 「いや行先がどこなのかは知ってるよ。突然別行動なんかするわけないだろ。怒られるし」 「自由行動だったらどこへ行きたいか、ということか」 「そうそう。俺はさ、法隆寺とか見たいな。聖徳太子だぜ。なんかすごそうじゃん。晃一はどこか見てみたいところある?」 「そうだな……」  移動時間や見学時間さえも無視して、とりあえず見てみたいと思うところ。京都は自主研修の行程を決めるために多少調べたが、奈良に関しては見学先として指定された場所以外に関しては事前知識があまりない。  俺が何を言うのか楽しみに待っている栄斗がわくわくした様子でこちらを見ている。おまえの期待するような返答を俺が言えると思っているのか。栄斗にも分かりそうなものにしておくか。 「石上神宮とか?」 「あー、確かすごい剣のあるところだよな」 「七支刀だな。知っているのか」 「馬鹿オマエ俺が常日頃何のために神社の本読んでると思ってんだよ」 「定期テストで石上神宮七支刀が出た時におまえは間違えていた気がするが」 「……気のせいじゃないかな。あれぇ、おかしいなぁ……。好きで調べている時は分かっていても、テストになると分からなくなるんだな……。おかしいなぁ……」 「あとは、古墳だな。北海道ではなかなか見られないから。大阪の方の古墳も見ていたい」 「古墳かぁ。鍵穴みたいなやつだな」 「前方後円墳」
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