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俺は窓を開けたままにして、カーテンだけを閉める。
ひよを迎えに来たニワトリに言われたことがまた気になっているのだろうか。飛行機でも汽車でも俺はぐっすり眠っていたので、その間に紫苑がどうしていたかは分からない。ずっと思い悩んでいた可能性もある。
着替えを済ませた俺は鎌倉と空港で買ったお菓子を手に居間へ向かった。今渡せるお土産をさっさと見せてやった方が妹も五月蝿くならないはずだ。俺が部屋にいた間に帰って来ていたらしい父にも軽く旅の報告をしつつ、お菓子の箱をテーブルに置いて部屋に戻る。
「紫苑様、お待たせ。……紫苑様? おい、夕立。寝たのか」
カーテンを開ける。その音に驚いた夕立が「くゎ」と情けない声を上げて飛んで行ってしまった。
「……は?」
おい。
どこへ行くんだ。
唖然として外を眺めていると、夜の闇に消えたカラスが慌てた様子ですぐに庭に戻って来た。そして、窓枠に着地すると同時に姿が有翼の美青年へと変化する。
紫苑は定位置の古新聞の上に脱いだ革靴を置く。
「おまえに頼まれていたお土産の飴、それらしいものがあったから買っておいた。京都で買ったものは後日宅配便でまとめて届くから今すぐには渡せないんだが」
「探していただけたという報告だけで今はとても嬉しいです。届くのが楽しみですね」
「……紫苑様。おまえ、空港からずっと元気がなさそうだな」
「えっ? げ、元気ですよ。私はいつでも元気いっぱいですよ!」
「悩みがあるなら……。俺が聞いてやれることがあれば話してほしい」
「晃一さん……。私は……大丈夫ですよ」
「大丈夫なやつはそんなに思い詰めた顔で『自分は大丈夫』とは言わない」
無意識に両手を揉んでいた紫苑が俺から目を逸らした。しばしの沈黙の後、観念したように小さく息を吐きベッドに腰を下ろす。俺が椅子に座ろうとすると、紫苑は自分の隣をぽんと叩く。
「隣で聞いてください」
「なぜ」
「顔を合わせて話したくないからです」
そう言いながら、また俺から目を逸らした。転がっていたトリケラトプスのぬいぐるみを膝に載せて弄びながら、俺の動きを待っている。
聞いてしまっていいのかな。自分で話をしろと言ったものの、いざこいつが話をしてくれるとなると遠慮した方がいいのではないかと思い始めた。本当は話したくないのだ、きっと。けれど話をするつもりのようだから聞いてやった方がいいか。
俺が隣に座ると、紫苑は俺のことを確認してから正面を向いた。
「正直に言うと、元気はないのかもしれません」
「やはりニワトリに言われたことが?」
「……神も神使も八百万。私のことを知っている者など一握りすらいないのですが、その僅かの中の大多数は私を良く思っていないと思います。彼女の反応は、間違っていない……はず。彼女を悪く思わないであげてくださいね」
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