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俺は相手に優しい言葉をかけてやれる人間ではない。自分ではそう思っている。不器用なりに、比較的寄り添うような言葉をどうにか見繕って告げる。解答を上手く纏められるといいのだが。
「今のおまえを否定するようなやつがいたら、俺はそれをきっと否定するだろう。おまえが今の自分をどう思っているのかは分からない部分もあるが、どうであろうと俺が今のおまえを肯定してやるから。だから……。だから、あまり自分を卑下するな。今の自分は否定するなよ」
「晃一さん……」
「おまえが過去にやってしまったことがなくなることはない。だが、今のおまえの味方はおまえが思っているよりもたくさんいる。トビも、ウシも、シカも、他にも。敵に怯えるよりも味方を大切にした方がいい、と思う。……俺も、俺もここにいるからさ」
感情の起伏をほとんど伴わない無表情な声。感情を込めているつもりでもそう言われがちなので、いつもよりも気持ち強めに声を出した。
紫苑は俺のことをじっと見つめている。黙っていないで何らかの反応を示してほしいところである。沈黙する俺達の間に挟まれているトリケラトプスのぬいぐるみがかわいそうだ。
俺から何か言った方がいいのか?
「……えぇと」
「優しい。優しい方ですね。あぁ、こんなに近くに、こんなにも眩い光があるなんて……」
「なっ……!?」
泣いている……。
俺のことを見つめる漆黒の瞳は濡れた光を揺らしていた。艶やかな黒が真っ暗な輝きを帯びている。
どうやら俺は自分の発言で神様を泣かせてしまったらしい。とんでもないことだ。この後恐ろしいことが起こるのではないだろうか。なんてことをしてくれたのだと祟られるのかもしれない。俺を祟っても、おまえに利益はないというのに。
滲む涙を拭って、紫苑は微笑む。
「晃一さん、私の前にいてくれてありがとうございます」
トリケラトプスのぬいぐるみをそっとベッドに置き、空いた手で俺の手を握る。己を守るように、そして己を隠すようにして履いている黒い手袋が俺の手を包んでいた。夏場は外している時もあったが、こいつの手は基本的に黒い手袋に覆われている。徹底された黒ずくめである。
俺の手を掴んでいる間は、こいつの手が不安そうに握られて揉まれることはない。とはいえずっと掴まれていても困る。だが、今はこいつの気が済むまで掴まれておくことにしよう。
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