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そうしてそのまま、ほんの少しの時間が過ぎた。紫苑は俺から手を離すと、ゆっくりと深呼吸をする。
「少し、気持ちが楽になりました」
「そうか、それならよかった」
まだ微かに浮かんでいる涙を拭い、苦笑する。
「みっともないですよね、こんな……。弱音を吐いて、それに、貴方の前で泣いてしまうなんて。情けないところを見せてしまい申し訳ありません」
「ポンコツなのは今に始まったことではない。気にするな。俺も気にしないから」
「不敬な人の子ですね……」
「神様にではなく友人に対して言っている」
ずっと跪いていた俺は立ち上がり、軽く伸びをした。息を吐いて体の力を抜く。
「お疲れのようですね」
「旅は楽しいが疲れる」
旅をするとその間は楽しいのだが、帰って来ると一気に疲れが出てしまう。家に辿り着くと安心するからだろうか。翡翠の神通力を使ったことも影響しているのか、今日はもう早く眠りたいと体が訴えていた。紫苑の話を聞いている間はそちらに集中していたので眠気は忘れ去られていたが、紫苑の気持ちが楽になると同時に俺の眠気が蘇ってしまった。
どうぞ、と言って紫苑がベッドから立ち上がる。返答せずに俺はベッドに倒れ込んだ。パジャマに着替えるのも面倒だ。このまま寝てしまおうか。
「旅自体は楽しかったようで何よりですが……。その疲れは旅の疲れだけですか……?」
「どうだろうな」
「明日はゆっくり休んでくださいね」
「そうするつもりだ」
明日はスーツケースの中を整理して、デジカメのデータを確認して、宅配便がもし届いていなければ後は休むことにしよう。届いたらそれも確認しなければならないが。
「おやすみなさい、晃一さん」
楽しい修学旅行だった。トラブルがなかったわけではないが、いい思い出がたくさんできた。栄斗も美幸も日和も楽しそうだった。自分の顔は見えないが、きっと俺も同じように笑っていたのだろう。笑っていたつもりである。
いつか、この旅を思い出して話をすることもあるのだろうか。四人で色々見られてよかったな。
少しだけ開いた窓から冷たい風が吹き込んで来た。「かあ」という鳴き声と羽音がして、部屋の中から夕立の気配が消えた。
「あぁ、おやすみ。紫苑」
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