終局と龍と女になりたい女子高生

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 日曜日に、青いスカートを穿いて、河川敷を歩いていた。  疲れるまで歩くのは好きだった。一度、帰りの体力を計算していなくて、隣町で力尽きて帰れなくなったこともあった。  この辺りは野犬が出るので、気をつけなくてはならないと言われていたのに、失態だった。  あの時は、仕方がないのでタクシーを止め、お金がないのでパンツを見せて勘弁してもらおうと思ったが、運転手さんに「気持ちの悪いものを見せるな」と怒られ、捨てるように家の前に下ろされて帰った。    土手の上を、女の人が犬を連れて歩いていた。  犬は、最近流行りのノー・シー・ズーという、全身の毛が1メートル近く伸びるかわいいと評判の犬種だった。地面を毛で掃いてくれるので、道がきれいになると評判だった。  去年くらいに、ノー・シー・ズーの月額定額サービスが開始され、なんのかんのと批判されていたけど、法律違反になるようなことが特になかったらしくて、サービスはそのままスタートした。  命は尊い、のだろう、多分。  でも、ハマガリデバネズミやネオタランチュラで同じサービスが始まっても、特に批判されることはないような気がする。  同じ命ではあるけれど、命以外のところが同じではないからなのだろう。  同じ女として生きているのに間宮ヒカリのようにはなれない私と同じように。    河川敷は幅が五十メートルくらいあるので、土手の近くを歩いていれば安全ではあったけど、今日も河龍が水面から触手を空高く――十メートルくらい?――伸ばしていた。  真っ赤な川の水が巻き上げられて、血の雨のように降り注いでいる。  人間が近づけば、簡単に巻き取られて、川底に沈められてしまうらしい。らしいというのは、最近は誰も近づかないのでその現場を見たことがないからだ。河龍が発生した当時ならともかく、今ではそんな危険を冒す者はいない。  あと二十年もすれば、温暖化の進行で陸地は今以上に激減し、飲み水も食料もなくなって、人間はまともに生存できなくなると言われている。  一人一人が地球の未来と向き合うために、成人年齢は十二歳に引き下げられ、私にも投票権がある。  そんな大変な状況の中で、私は地球の人類を生き延びさせようとすることよりも、自分が女であることをまっとうしたくてたまらない。  今ここでスカートをまくり上げたら、河龍が私のパンツ目がけて殺到してきたりしないかな。  しないだろうな。オスとかメスとかなさそうだし。  第一、そんなんで、河龍の触手が五十メートルも伸びたら大問題だもんな。  あはは、ないない。  けれど、そうして胸中で苦笑した時には、私はスカートをまくり上げてパンツを丸出しにしていた。  川面を渡ってきた風が、私のすねや、ひざや、普段は風になぶられることに慣れていない内股の皮膚を撫でて吹き抜けていく。  犬の散歩をしていた女の人が、ギョッとして立ち止まった。  そして後ろから、聞き慣れた声がした。 「小高(こだか)さん! なにしてるのそんなとこで!」  間宮ヒカリがそこに立っていた。
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