プロローグ

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振動が心地よい。 私は今、ムーン様の車に揺られている。 あの後、私はムーン様の手をとった。 拒む理由が特に見つからなかったから。 御屋敷を出る時に、いろんな人に変な目で見られた。それはそうだろう。下級の奴隷(メイド)が地位の高い人物と歩いているのだ。天地がひっくり返ってもありえない。 「さぁ、着いたよ。」 二人で車をおりる。そこには小さな新聞社が建っていた。理解が追いつかない。 「あの、ここは……?」 ムーン様は相変わらずニコニコしている。意外と心が読めない人だ。後で教える、という圧を感じる。 とりあえず黙って彼の後ろをついて行った。 中には、エレベーターが一つだけあった。二人でそれに乗り込む。すると、どんどんと下へと進んでいった。地下10階でエレベーターは停止し、扉が開く。 その先には、とても長い廊下が続いていた。 二人分の足音だけが響いている。少しだけ気まずい。それにしても、ムーン様はモデル並にスタイルがいい。筋トレでもしているのだろうか、肩幅が広い。男らしい体をしている。 足がフラフラしてきた。精神に疲労を感じているのがわかる。あんな光景を見れば誰でもこうなるだろう。 「大丈夫か?顔色が悪いぞ?」 突然ルーン様が顔を覗き込んできた。 どうやら外見に出ていたらしい。 「……さっきの光景を、少し思い出してしまいました。」 素直にそう告げると、ムーン様は納得したのかまた前を向いた。 「さすがに刺激が強すぎたか、すまない。」 「……。」 刺激は確かに強かった。でも、私が驚いたのはそれだけでは無い。 あの時、私の心はどこかスッキリしてしまったのだ。旦那様が死んだという事実に。 自分のこんな一面に恐怖すら感じる。 「さぁ、着いたぞ。中に私の仲間達がいるはずだ。」 気づけば、目の前には大きな扉があった。 もうそんなに歩いていたのか。ムーン様はドアノブに手をかける。 ガチャ 中は薄暗く、壁には有名な絵画が沢山飾ってあった。部屋の中心には大理石でできた大きなテーブルが置いてある。全部で椅子は7つ。そのうち、上座と手前の一席が空いていた。 部屋にいたのは5人の男性。皆口々に、「おそーい」やら、「待ちくたびれよ」やら言っている。 「時間通りだ。お前らは待てもできない犬以下なのか?」 ムーン様がからかうように言うと、また騒がしくなった。みんな仲が良さそうだ。 ルーン様はそのまま上座へ座る。今座っているところが彼らの定位置なのだろう。急に威圧感を感じる。すると彼が口を開く。 「さて、全員揃ったことだ。先に自己紹介といこうか。まずは……そこの新人からにしよう。」
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