左手の晩餐

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 ※ ※ ※ 「私の人生のテーマは、故郷を再生させることです」  面接室でも牧歌的な笑みを崩さなかった彼の声は、けれど、一音一音が確かな熱を帯びていた。 「高校二年生の時に地元が震災に見舞われました。通っていた学校は津波に流され、小さい頃からお世話になってきた人たちとは離れ離れになりました。もう会えなくなった人も少なくありません。その経験があってから、私は一度しかないこの人生を愛する故郷に捧げようと決意しました。そして大学では——」  ドラマティックな彼の志望動機が、僕の脳内の薄っぺらい台本を軽々と吹き飛ばす。  ここからそう遠く離れていない田舎で元気に暮らしている両親や親戚、友人たちの顔が浮かんだ。成人式に再会した面々はみんな元気そうで、僕と同じく進学した人もいれば早々と結婚を決めた人もいたりと、それぞれの人生を楽しんでいた。 「ありがとうございます。では次に……」  その後僕がちゃんと応答することができたのか、そもそも最後まで面接を受けることができたのか、よく覚えていない。
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