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気がついた時、僕は電車の中でつり革を掴んでいた。電光掲示板を見上げると、自宅の最寄駅をすでに五駅過ぎていた。
眠っていたわけではないと思う。なのに、三十分程度かそれ以上の間、脳がほとんど機能を停止していた。
そのまま僕は、何かに導かれるように、全く用事のない無人駅で電車を降りていた。
改札を出て寂れた商店街を歩いているうち、ほとんど人気のない田舎道にたどり着いていて、いつの間にかあたりはすっかり暗くなっていた。
駅からどれくらい歩いたのだろう。ここにたどり着いた時にはまだ夕焼けが見えていたはずの空は真っ暗で、ちらっと時計を見れば二十一時をとっくに過ぎていた。
お腹は空いていたけれど、食欲はなかった。
ぐうっと胃の中から聞こえる音が、僕という人間の中身の無さを告げる。
小学校から大学まで無事に通えて、どの環境でも気の合う友達がいて、部活も楽しく、勉強でもそこまで困ることなく、それなりに恋もしてきて。
両親ともに健在で、ときどき喧嘩もするけど仲は悪くない。
——何も失ったことのない僕は、何も得たことがない。
親との死別を乗り越える少女も。
社会の無理解と闘うシンガーも。
不平等や偏見に抗う女子大生も。
災害の傷跡に立ち向かう青年も。
みんな、物語を背負っている。
宿命とともに生きる人間は皆、美しくて、たくましくて、僕にとってはあまりにも眩しい。
彼らと違って満ち足りている僕の人生は、だからこそ大切な物が欠けているような気がして。
五臓六腑に、細かく割れた記憶の破片がいくつも突き刺さる。
足元には、薄汚れた無表情なアスファルトが延々と続いていた。くぼみも、膨らみもない平坦な灰色。
歩道の端にビジネスバッグを置き、前後左右を少しだけ見渡してから、仰向けに横たわった。
ガードレールの下から左腕を通して車道に晒し、夜空を飛ぶ飛行機の赤い点滅を眺める。
飛び抜けてマイペースな流れ星に見えなくもないその光に僕が預けたのは。
これ以上ないほど醜悪な、下劣でおぞましい願い事だった。
——いっそのこと、障害者にでもなりたい。
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