左手の晩餐

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 ※ ※ ※ 「惜しかったな! だけど、銀賞でも十分おめでたいよ!」  小学六年生の秋。  県の読書感想文コンクールの結果を受けて、担任の先生が僕の肩をぽんとやさしく叩く。    ——金賞間違いなし。  そんな太鼓判とともに学校代表に選ばれた僕の作文は、もう一歩のところで期待された栄誉に届かなかった。 「ちなみに、受賞者の作文が図書室に届いているから、読んでみるといいよ。先生は、浩斗(ひろと)の作文の方が良かったと思うけどな!」 「ありがとうございます。読んでみます」  コンクールに対する思い入れも悔しいという気持ちも、そこまで強くはなかった。ただ、県内で唯一自分の上を行った作文がどのようなものだったのか気になって、その日の放課後に図書室へ向かった。  カウンターで先生に訊ねて棚まで案内してもらい、受賞作文の掲載された冊子を手に取った。  適当にページをめくると、まず目に入ったのは僕自身の作文だった。  僕が感想文を書いたのはその年の課題図書に指定されていたYA小説。平凡な中学生男子がフィリピンからの転校生との関わりの中で多様性について学んでいく物語で、シンプルな展開と平易な文章がデリケートな問題をうまくエンタメに落とし込んでいた。  身近に外国籍の人がいない僕も、子供ながらに主題について理解を深め、それなりにまとまった感想文を書くことができた。    ページをめくると、金賞の作文はすぐに見つかった。受賞者は、僕の学校から少し離れた小学校に通う女の子だった。  彼女の作文は、次のような一文から始まっていた。 【母を亡くしてからずっと、私は真っ暗な日々を生きていました】
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