左手の晩餐

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 ※ ※ ※  女性を招くことを想定していなかった僕の部屋はひどく散らかっていて、灯里が素面であれば幻滅されていたかもしれない。  シングルベッドの上で、灯里の体が少しずつ肌色に染まる。僕はその上に水彩画を描くようにして、両の手で彼女のやわらかな皮膚を隅から隅まで撫でていった。  彼女は僕の下ではらはらと涙を流し、ガラスの破片のような喘ぎ声をあげた。 「くやしい、くやしい」  彼女は嘆きながら、僕の腰や上腕に何度も爪を立てる。 「わたし、男に生まれたかった」 「灯里」  充血した目をじっと見つめながら、髪を撫でる。彼女はさらに僕を強く引っ掻いた。 「灯里は、頑張ってる」 「浩斗くん……」  キスをして、背中に手を回す。灰色のブラジャーが、想定外の出来事から逃げるようにベッドの下へ落ちた。    あらわになった二つの乳房は、着衣の時よりもずっと膨らんで見えて。  彼女の人生に課せられた呪いが、その中に全て詰まっているかのようだった。  左右の桃色に吸い付き、皮膚を溶かすつもりで舌を走らせる。  彼女の物語を象徴する膨らみを、跡形もなく、取り込みたかった。
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