18人が本棚に入れています
本棚に追加
「八百代表は、いつものように金策に走り回って、いや歩き回っていますよ」
「もういいお歳なのに、相変わらずお元気ですね」
「ええ、彼女は年齢を感じさせませんし、本人も意識してないと思いますよ。自分の年齢なんて忘れていると思いますよ」
そう言って、赤ら顔の男性は声を出して笑った。
部屋を出たヨローナはそのままレッスン室に入っていった。
「あんたの言い方、おかしいって」
「はあ、おかしいのはあんたでしょうが」
レッスン室の中では、似た顔立ちの二人が対峙し、今にも一触即発のムードが漂っていた。
「あなたたち、何をしているの? 休憩時間は終わったわよ」
二人の女性はお互い睨み合ったまま。見かねた別の一人がことの顛末を語った。
「なるほど。セリフのイントネーションがおかしいとお互いが主張しているのね」
ヨローナは、今聞いた揉め事の顛末を要約して口にした。すると、即座に当事者の二人が反応した。
「イントネーションやこーじゃのうて、この子なぁ訛りよ」
「だはんで、もうすでに、なのは訛り通り越すて方言よ」
日本人ではないヨローナにとって、訛りと方言の違いは皆目検討がつかない。そもそも、すでに二人の話している言葉がよく理解できなかった。
「もうケンカはやめや。早う仲直りしてレッスン始めやで」
とっくにヨローナの理解できる日本語の範疇を越えている上に、止めに入ったもう一人の言葉もよく分からない。ヨローナが理解できるのは、標準語のみなのだ。
「さっきまでは、みんなちゃんと標準語を喋ってたじゃないの。どうしたのよ、急に」
最初のコメントを投稿しよう!