屋上 傷 無理に笑う そんなことすら

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屋上 傷 無理に笑う そんなことすら

 今まで一度も自分の気持ちを誰かに言い当てられたことなんてなかったのに――。 「お前ってさ、坂上のこと好きなの?」  朝のまだクラスメイトが来ていない教室でたまたま二人きりだった。  まともに言葉も交わしたことのない後ろの席に座っている相田に問いかけられた質問に心臓が一気に鼓動を速めていく。 「な、んで……?」  振り返った俺は聞こえるか聞こえないかの声で聞き返すと、相田は少し困ったような表情でこちらを見つめている。  しばらくお互いに動けないままの状態が続いていた。 「そんなの見てればわかる」 「あの、その……誰にも言わないで……」  自分では上手く隠せていると思っていただけに、不安が押し寄せてくる。  必死で隠してきたつもりなのに、どうして気づかれてしまったんだろう?  きっかけなんて些細なことだ。  人見知りでクラスになかなか馴染めない俺にあいつが声をかけてくれた。  二人組を作る時は、真っ先に俺の名前を呼んでペアになってくれた。  気がつけば隣にいることが当たり前で、その姿を目で追いかけていた。 「言うわけないだろ……」 「うん……」  違うと否定することも出来たのに、そうしなかったのはきっとこの想いを誰かに気づいて欲しかったから。  自分の胸の中に閉じ込めておくことに、限界を感じていたから。  誰かに知ってもらえたことで、ほんの少しだけ気持ちが軽くなった気がしていた。  大丈夫、ちゃんといつも通りに話せているはずだ。  そんな時、たまに出てくる男子あるあるな会話が始まる。 「女子の中で一番かわいいって思う人って誰?」  ただの会話だとわかっているのに、そんなことすら構えてしまう自分にから笑いが出そうになり、思わず拳を握った。 「俺は……やっぱ沢村さんかな」  ずきんと心臓が痛む。  ずっと一緒にいるんだからあいつが誰を見つめているのかくらい、すぐに気づく。  ただ気づかないフリをしていただけ。  認めてしまって、自分のこの気持ちが行き場を失ってしまうのが怖かった。  だけど、こんな形で知りたくなんてなかったのに――。  その場にいることができなくて、逃げるように屋上まで走ってきた。  もう隠し通すことはできないと感じる。 「苦しい……」  思わず漏れてしまう言葉さえも、抑えることができない。  自分で勝手に傷ついて落ち込んで、その場から逃げることしかできなくて、それでも好きという気持ちは消えない。 「圭太!」  名前を呼ばれた声に、肩が震えた。  どうしてここに来るの? 俺のことなんて放っておいてくれたらいいのに。  そう思うのに、俺は溢れそうになる涙をぐっと堪えながら笑顔で振り返るんだ。 「どうしたの?」 「いやっ、走ってったから心配で」 「俺は大丈夫だよ。心配ない」 「そう?」 「うん。すぐ戻るから」 「わかった。じゃあ、先に戻ってるな」  本当は嘘。こんなに胸が苦しい。それでも本当の気持ちは言えなくて、戻っていく後ろ姿を見送ると、堪えていた涙が静かに頬を伝っていく。 「何が大丈夫だよ。無理に笑う必要なんてないのに」 「泣いたらあいつ驚くだろ?」 「驚かせてやればいいじゃん」 「そんなこと出来ないし」 「まあ、そうだよな」  自然と隣にやってきた相田が普通に声をかけてくる。  そこにあったのは苦し紛れの言い訳なんかじゃなく、素直な気持ちと笑顔だった。  こいつだけが知っている俺の想い。  誰にも言うつもりなんてなかった自分だけのあいつへの想いを隣にいるこいつだけが知っている。
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