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雪 放課後 遠回り あの頃に戻れたら
放課後の教室で一人。
窓の外を眺めながらあいつの部活が終わるのを待っていた。
制服だけでは寒いから、マフラーとダウンジャケットを身に纏いながら、グラウンドを駆け回る姿を追いかける。
しばらくすると「ありがとうございました」と監督に挨拶する声が響いてきて、なんとなく身構えてしまう。
朝よりもだいぶ冷え込んできた空気に、はぁっと息を吐けば白い塊が宙へ舞い上がっていく。
そして静かに目を閉じると、走って近づいてくる足音が聞こえてきた。
「お待たせ」
さっきまでグラウンドを走り回っていたはずなのに、教室へ戻ってきた君は疲れを感じさせないほどの笑顔で、気がつけば自分もつられるように笑っていた。
学校から一歩外へ出れば、教室よりもはるかに風が冷たくて、手袋をしていない手はすぐ真っ赤になる。
それをポケットに入れることは淡い期待があるからしたくない。
ーーねえ、気づいてよーー
何度も心の中で呟いてみても、その声は君に届かない。
空からはちらちらと雪が降り始めて、掌を広げてふわりと落ちてきた結晶を眺めながら君へ差し出せば、ようやくその手を柔らかく包み込んでくれた。
いつもよりも遠回りをして歩いた家までの道。
寒さを忘れるくらい繋いだ手が温かかったことを今でもはっきりと覚えている。
もしもあの頃に戻れたら、今度はきちんと伝えよう。
ずっとずっと君のことが好きだったことをーー。
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