アリス

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アリス

 アリスは美味しそう食べるので、見ているこっちまで嬉しくなってくる。 「フフ、ゆっくり食べないと食べ過ぎちゃうわ」  意識してスプーンを離しペースダウンした。 「はァ、そうですね」  早食いは時間のない芸能人らには特技にもなるが、美容やダイエットには悪影響だ。早く食べると満腹感を得られず、消化にも悪いのでメリットは時短以外ほとんどない。 「ああァ、やっぱ(から)いわね。悪いけどお水ちょうだい」  手でジェスチャーし水を要求してきた。 「は、ハイ……」  そうだ。水を用意しないと。母親直伝のカレーは食べ始めはそれほど辛くなくても徐々に辛さが効いてくる。  ボクは慌ててキッチンへ向かって、グラスに氷とミネラルウォーターを注いだ。 「ハイ、どうぞ」 「ありがとう」  テーブルへ水を運ぶとアリスはグラスを受け取り、一気に飲み干した。 「フフゥン、アイツにもこのカレー食べさせてあげたかったなァ」  アリスはしみじみとつぶやいた。 「えェ……、アイツですかァ?」誰だろう。彼氏なのか。 「アイツはカレーとハンバーグさえあれば、喜んでたからね。ったく、子どもと同じだよ」  少し嘲るように笑ったが、無性に懐かしそうだ。少し感慨深い表情で苦笑いを浮かべた。 「そうですね。男はいくつになっても子どもですからね」  自分のことは棚に上げ一般的にはそうだろう。男はいつまでも厨二病をこじらせているので、女性の方が精神年齢が高い。  アリスの言うアイツというのが少し気がかりだが、その話はそのまま有耶無耶(うやむや)になった。 「はァ、美味しかった」  アリスは、アッと言う間にカレーライスひと皿を平らげてしまった。すごく満足そうだ。 「そうですか。それは良かった」  これで安心して隣りの自分の部屋へ戻ってくれるのだろうか。なんとなく寂しい。 「じゃァ、悪いけど当分の間、ここで厄介になるわね」  アリスはソファにゴロンと寝転んだ。バスタオルの裾が少し乱れて、ヤケに股間が気になった。 「はァ……?」当分の間、厄介になるって、なんだろう。  そんな話しは聞いていない。 「はァッて、なによ。ポチローったら、まさか私をまる裸にして外へ追い出す気?」  アリスはバスタオルのままボクを睨んだ。 裾が乱れるので股間の辺りがスゴく気になる。 「いやいや、まる裸にしてってェ……」  つい視線を逸らせた。  自分で風呂に入る際に脱いだクセして、すべてボクの所為(せい)にするつもりなのか。 「明日には引っ越しの荷物が届くはずだから、それまでよろしくね」 「はァ、荷物が届いてないんですか?」 「そうよ。ベッドもなくて床に寝ろって言うの。それとも一緒に近くのラブホでも連れてってくれるの?」 「いえ、ラブホはちょっと。世間体もあるので。そう言うことなら今夜はウチに泊まってください」  仕方がない。今夜は遅いので追い出すわけにもいかないだろう。 「フフゥン、ありがとう。じゃァ、お礼に一発、合体しちゃうゥ!」  アリスは女豹(メヒョウ)のようにボクに飛びかかってきた。 「わッわ、わァァァ……、なに言ってンですかァ」  思わずボクは悲鳴をあげ四つん這いになって逃げ惑った。
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