母親

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母親

 手に持ったスマホが震え着信音がした。 「ン……?」  どうせまたハリーだろう。ボクは着信画面も確かめず通話ボタンをタップした。 「なんだよ。うるさいな。何度も何度も。明日、掛け直してこいよ!」  つないだ途端に早口で悪態をつけた。こっちもアリスのことで手一杯だ。ハリーの相手をしているヒマはない。 『えェ……?』相手は驚いて声が詰まった。  一瞬だが、聞こえたのは女性の呻き声だ。 「あ、ヤバい……」ハリーではないようだ。  まさか、今の呻き声は。 『なんですッてェ……、誰がうるさいのよ』  すぐさま電話の相手が怒鳴り返してきた。 「うゥ、お母さん?」  失敗した。電話してきたのは母親だったみたいだ。 『イチロー、母親に向かって、うるさいッてなんなのよ!』 「いや、それは……」ハリーじゃなかったのか。勘違いしてしまった。 『イチロー。学校が夏休みに入ったからって妙なことしてるんじゃないでしょうね』 「えェ……、別に妙なことなんてしてないよ」  マズい。セクシークイーンのアリスが部屋に泊まることは親には言えない。 「フフゥン」  だがアリスはまたイタズラっ子みたいに微笑んだ。 「な、なんなの。お母さん?」  できるだけ早く通話を終えてほしい。 『なんなのじゃないわよ。お母さんが居ないからって、変な遊びをしてるんじゃないでしょうねえェ……』  電話の向こうで喚いている。 「変な遊びって。ボクがそんなことするはずないだろう」  ボクのことを信じてほしい。
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