母親

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母親

 なんとかごまかすのに、こっちも必死だ。  しかしアリスは容赦なくイタズラを仕掛けてくる。 「ほらァポチロー。いやらしいのね。こんなにしちゃって」  耳元で甘く(ささや)きながら、指先でボクの敏感な部分を刺激していく。まさに小悪魔みたいに絶妙なタッチだ。 「あッああァ……ン、ダメだよ」  ボクも堪らず反応してしまった。 『はァ、何がダメなのよ。イチロー?』  電話の向こうの母親にはボクの声しか届かない。 「ううゥ……」とっさに応えられず呻くだけだ。 「何がダメなのか。ママに言ってあげなさい。ポチロー」  さらにアリスは追い打ちをかけるように(ささや)いてきた。完全にボクをオモチャにして翻弄していく。 「ち、違うんだって。あッあァ……、そこはダメだって」  初心者のボクは(もてあそ)ばれていた。 『はァ……、どこがダメなのよ。そこに、誰か女の子がいるの?』  やはり異変に気づいたのだろうか。母親は勘ぐってきた。 「いやァ、いないよ。お、女の子なんてェ」  明らかにウソだ。声が裏返ってしまいそうだ。 『もぉ、ウソ言いなさい。変な喘ぎ声を出しちゃって』 「うッうゥ……」返す言葉もない。 『今夜から夏休みなんでしょ。イチロー?』 「そ、そうだけど……」 『ちゃんと、ご飯を食べてるの?』 「ああァ、食べてるから安心してよ」 『お母さん、この夏休みは名古屋にいて帰れないからね。カップラーメンばっかり食べてんじゃないのよ』 「わ、わかってるよ。今夜だって、お母さんに教わったカレーを作ったし」 『ちゃんとニンジンや野菜も取るのよ』 「わかってるよ。うっぜェな」
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