母親

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母親

「わかってるよ。うッぜえェなァ」  つい反抗的になって酷いことを言ってしまった。 『またウザいって。心配してるんでしょ』  まるで心配の押し売りだ。 「ほらァ、ママに心配かけちゃダメよ」  アリスは(ささや)きかけて舌をボクの耳元へ這わせていく。 「うッ、やめろって」 『もぉ何をやめるのよ。また変なこと言って。ふざけてんの。イチロー』 「ち、違うよ」 『いい、本当はイチローがどんなお嬢さんと付き合っても良いのよ。あなたを信じてるから』 「ど、どうも……」 『だから、イチローも好きな子ができたらちゃんと紹介しなさい』 「ウン、わかったよ」  なんとなくセンチメンタルな気分だ。 『戸締まりと火の始末だけは気をつけてね』 「ああァ、お母さんも元気で。お父さんによろしく」  最後はなんとなくしんみりしてきた。 『じゃァ、また連絡するわね』 「ウン、おやすみ……」  なんとか、母親からの電話は済んだ。 「フフゥン、良いお母さんじゃん。ポチローのママは」  いまだにアリスはボクにマウントを取って笑っていた。 「あのですねえェ……。退いてくださいよ。早く」  いつまでボクの下半身に(また)がっている気なんだ。  その時、また着信音が響いた。 「なんだよ。またか?」ボクは手に持ったスマホを確かめたが、どうやらボクのスマホではないようだ。 「私のよ」  アリスは立ち上がり、バッグからスマホを取り出した。 「ううゥ……」  着信画面を確認した瞬間、眉をひそめた。 「ゴメン」  
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