アリス

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アリス

 あれからどれほど時が過ぎたのだろう。真夜中になっても蒸し暑さは変わらない。  今夜も間違いなく熱帯夜だ。エアコンがなければおちおち寝てもいられない。  暑くて寝苦しいこともあるが、それ以上にアリスのことが心配だ。  ベッドに横になったものの一睡もできない。  目を(つぶ)り、なんとか寝ようとすると頭をよぎるのはアリスのことばかりだ。今もアリスの甘美で蠱惑的な匂いが消えない。  手の平にも下腹部にも彼女の(ぬめ)らかな柔肌の感触が残っていた。  しかしなぜかアリスとの出来事は、遠い昔のことみたいだ。  突然、嵐のように部屋へ現われてボクの心をかき乱していった。  いつしか、寝ていたのだろう。  インターフォンの音に目を覚ました。カーテンの隙間から真夏の強い日差しが差し込んでいた。  またインターフォンが鳴らされた。  いったい誰なんだ。 「ハイ……」寝ぼけ(まなこ)を擦りながら玄関へ急いだ。  相手を確かめもせず玄関のドアを開けると、ムッとする熱気と共に美女が抱きついてきた。セミの声が聞こえてきた。 「えェ……?」 「フフゥン、驚いたか。おはよう」  アリスだ。 「あ、どうも……」ビックリして目が覚めた。  アリスの顔を見ると泣き腫らしたような目だ。スッピンなのだろう。ヤケに幼く感じた。 「ねえェ……、ポチロー。お腹空いたわ」 「え、お腹?」 「フフゥン、お母さん直伝のカレーはひと晩寝かした方が絶品なんでしょ?」 「ああァ、そうだけど……」 「じゃァ一緒に食べようよ」 「ン、そうだね。世界で一番、美味しいカレーを用意するよ」  アリスと一緒ならレトルトカレーだって、絶品だ。  さっそくボクはカレー鍋を温め直した。  すぐに香ばしい匂いが鼻孔をくすぐってきた。  アリスの本心はわからないが、今は世界で一番美味しいカレーで(もてな)すだけだ。 「さァ、どうぞ。召し上がれ」  カレーをよそい、アリスの前へ置いた。かなり熱そうだ。 「フフ、ありがとう」  スプーンにすくいフゥフゥと息を吹きかけ冷ました。大きな口を開け、ひと口食べると笑みがこぼれた。 「フフゥン、マジねえェ……。ひと晩置くと美味さが格別ね」 「そりゃァ、良かった」  ためしにボクもひと口、カレーを食べた。少し熱いが美味しい。
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