アリス

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アリス

 ためしにボクもひと口、カレーを食べた。少し熱いが美味しい。 「フフ、良かった。一番美味しいカレーを食べてもらえて」  自然に顔がほころんだ。  これならば自信を持ってアリスに(すす)められる。ジャガイモやニンジンにも味が染み込んで、絶品のカレーライスだ。  ボクはリモコンでブルーレイをオンにし録画しておいたあいみょんのライブを再生した。ちょうど大好きな『マリーゴールド』のイントロからモニターに映った。優美な旋律がスピーカーから流れていく。 「でもちょっと(から)すぎるわねェ……」  アリスの大きな瞳が潤んでいた。 「あッ、そうですね。水を持ってきます」  慌ててボクはキッチンでグラスに氷を入れペットボトルのミネラルウォーターを手に戻った。 「ハイ、どうぞ」  グラスにミネラルウォーターを注ぎアリスの前へ差し出した。 「フフ、ありがとう」彼女はうつむき加減で礼を言った。 「あ、あのォ……」  一瞬、訊くかどうか悩んだが意を決した。 「彼氏さんの容態は?」 「えッ、ああァ……、大丈夫よ。もしも彼氏が亡くなっていたらカレーもノドを通らないでしょ」  アリスは力なく微笑んだ。 「そ、そうですね。良かった」 「まァ結局、彼氏にはけどね」 「えェ……?」どういうことだろう。とは。 「面会謝絶なの。家族以外はね」 「はァ、そうなんですか」 「私はほらァ、ちょっと普通とは毛色の違うセクシークイーンでしょ」 「それはそうですけど……」 「彼氏の一族は、いわゆる上級国民なのよ」 「はァそうなんですか」  なるほど、ただでさえ世間体を気にする一族なのだろう。セクシークイーンとなれば尚さらだ。 「でも生きていれば、いつか奇跡は起きるわ」 「ええェ……、そうですね」 「それにしてもこのカレー、ちょっと辛すぎない?」  テーブルにポタッポタッと大粒の涙がこぼれた。 「はァ……、ティッシュティッシュ」  ボクはティッシュボックスをアリスの前へ差し出した。 「フフ、涙が止まらないわ」  つぶやいてティッシュで涙をふいた。
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