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天使のような
オーバーラップし画面は雨の街並みへと移り変わった。絶え間なく降る雨が路面に水たまりを作っていく。
雨の降る朝の雑踏の中、色とりどりの傘を差し人々が往来していた。朝の通勤通学のためだろう。
その中で異彩を放って、一人の半グレ風のヤンキーがフラフラと歩いていた。長い金髪で見るからに危ない雰囲気だ。
どこかでケンカをしたのか傷だらけだ。治療することなく、ずぶ濡れのままだ。ケガをしていなければ、かなりのイケメンだろう。
行き交う通行人らは眉をひそめ彼を避けていく。
「うッううゥ……」
ヤンキーは、だいぶ傷んでいるようだ。倒れるように、壁際へ座り込んだ。
しかし通行人は見て見ぬふりをして通り過ぎていった。半グレ風のヤンキーと関わり合いになるのはゴメンなのだろう。
容赦なく彼の元へも雨が降り注ぐ。彼もふて腐れてなすがままだ。
その時、見かねたように一人の美少女が傘を差しかけた。
「えェ……?」思わずヤンキーは、傘を差しかけた美少女を仰ぎ見た。
まるで天使のような美少女だ。女子高校生なのだろうか。ブレザー姿のよく似合う姫乃アリスだ。
まるで時が止まったような気分だ。
「どうぞ。この傘を使ってください」
アリスは優しく微笑んだ。
「フフゥン、彼女。オレに関わるとロクなことにならないぜ」
ヤンキーは不敵に笑みを浮かべた。強がりなのだろう。
「そう、じゃァ救急車を呼びましょうか」
「よせよ。こんなのカスリ傷だ。彼女……」
「アリスよ」
「えェ……?」
「私の名前はアリス。よろしくね」
「あ……、アリス?」
傷だらけのヤンキーは茫然として聞き返した。こんな自分を優しくしてくれる彼女などはじめてだ。
「そうよ。さァ強がりを言うならひとりで立てるわよね」
アリスは天使のように微笑んで手を差し伸べた。
「うるさいな。ほっとけよ」
ヤンキーはアリスの手を振り払った。
「フフゥン、じゃァ救急車で搬送されるか。私に手を貸してもらうか、どちらかに決めなさい」
アリスは毅然としてヤンキーの恫喝にも動じない。
「な、なにィ……」
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