日本一のセクシー女王様

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日本一のセクシー女王様

 七月に入り連日、記録的な酷暑日が続いてうんざりしてくる。  夜になっても茹だるような暑さだ。とてもではないが、エアコンなしではいられない。  しかし今日から夏休みなので気分は上々だ。いくらでも夜ふかしが出来る。両親とも名古屋に行っているので朝までゲームをしていても叱られる心配はない。  リビングのソファに寝っ転がりゲームをして(くつろ)いでいると、不意にインターフォンが鳴った。 「ンうゥ……」  上半身だけ起こし、キャビネットの上に置かれたデザイン置き時計(クロック)を見て確かめた。すでに時刻は十時を回っている。 「なんだよ。こんな時間に誰だろう?」  真夜中というワケではないが、こんな夜更(よふ)けに連絡もなく訪れる友人などいない。  数少ない幼馴染みで親友の張本(ハリー)も夏休みに入ってすぐに南の島へバカンスへ行ってしまった。彼女と二人で恋のアバンチュールの最中だろう。  女性の友達すらいないボクには(うらや)ましい限りだ。  もちろんデリバリーを頼んだ記憶もない。 「ンうゥ」上半身を起こし不満げに唸っていると、性懲りもなくまたインターフォンが鳴った。 「おいおい、なんだよ。いったいこんな時間に。うるさいなァ」  ボクはブツブツと小言(こごと)をつぶやきながら玄関へ向かった。  なんの警戒もせず、おもむろにドアノブへ手を差し伸べた。 「ハイ、なんでしょうか?」  ドアスコープで相手を確かめる事もなく、ノブを回すと向こう側から力いっぱいドアが開けられた。 「えェ……ッ?」  あっけに取られてドアノブから手を離した。すっかりドアが開くと、廊下にいる(あで)やかなメガネ美女が歓声をあげた。 「キャァ、こんばんはァーーーッ」  途端にドアの向こうから陽気な挨拶とともに勢いよくボクに飛びついて抱きしめてきた。 「なッ……!?」思わず息を飲んだ。  ボクは唖然として全身が硬直してしまい、すっかり彼女のなすがままだ。生まれて初めて絶世の美女との熱烈なハグだ。  柔らかな胸の膨らみがボクの胸板へ押しつけられた。 「うッわわァァァァーー……?」  ようやく正気を取り戻すとボクは()頓狂(とんきょう)な声を上げ、後ろへ卒倒しそうになった。  いったい誰なんだろうか。  当たり前のことだがボクにハグをしてくる美女なんて記憶にない。  何しろ彼女居ない歴、生まれてからずっとだ。親しい女子の友達すらいない状態だ。  もしかしたらゲームの途中、してエロティックな夢を見ているのだろうか。それにしては妙に生々しい感触だ。抱きしめていると柔らかくて無性に興奮してくる。 「フフゥン、近所迷惑よ。坊や」  メガネ美女は上から目線で笑った。おもむろに後ろ手で玄関のドアを閉めた。これで部屋にはボクと彼女の二人きりだ。 「えッええェ、まァ、そうですけど」  確かに彼女の言う通りだ。こんな夜更(よふ)けに大声で叫んだりしたら近所迷惑に違いない。  だが、なんとなく気まずい雰囲気だ。さっきからずっと気になって仕方がない。美女の柔らかなオッパイがボクの胸板に密着した状態だ。おかげで身動きすることもできない。満員電車でもここまでピッタリと密着することはないだろう。  さらに濃厚な香水の匂いがボクの鼻孔をくすぐっていく。目眩がするほど甘美で蠱惑(こわく)的な香りだ。一気に心拍数が上がり、かすかに身体じゅうが戦慄(わなな)いた。 「フフ、驚かせてゴメンなさいね」  彼女は、まるでイタズラ好きな小悪魔のように微笑(ほほえ)んだ。 「えッ、いやァ別に」  初対面だというのに、妙に()れなれしく接してくる。  どこかで見た覚えがあるアイドルみたいな美貌の彼女だ。なんとか必死に、気持ちを切り替えたいが誰なのか思い出せない。  年齢は二十歳前後の女子大学生くらいだろう。あまりにも美しいので年齢不詳だ。実年齢はわからないが、ボクよりもずっと大人で余裕が感じられる。  どこかの人気キャバクラ嬢なのだろうか。ボクみたいな初心者の接客にも()れているようだ。  こんな綺麗なキャバ嬢なら間違いなくナンバーワンだろう。しかもボディタッチも激しい。ハグされただけで初心者のボクは骨抜きになってしまった。  一度見れば、これほど絶世の美女を忘れるはずはない。オシャレなメガネをかけている所為(せい)だろうか。咄嗟にどこで見たのか、思い出せない。いったい誰なのだろうか。頭が混乱してパニック状態だ。 「はじめまして。よろしく」彼女は優しく微笑んだ。  真夏のビーナスみたいな笑顔だ。優雅に落ち着いたトーンで初対面の挨拶された。声にも聞き覚えがある。 「あ、どッ、どうも、はじめまして」  ボクは引きつり気味に笑顔で頭を下げた。  まるで小学生のように稚拙な挨拶しかできない。大学生になったというのに、我ながら情けない限りだ。 「今夜、隣りに引っ越してきた姫乃アリスよ」  美女はキスしそうなほど顔を近づけて自己紹介をした。甘い吐息がボクの鼻孔を刺激する。 「え、なんですって。姫乃アリス?」  まさか。あのセクシークイーンの姫乃アリスなのか。  何度も(まばた)きして、目の前の美女の顔を確認した。  
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