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ヤンキー
「フフゥン、じゃァ救急車で運搬してもらうか。私に手を貸してもらうか。どちらかにしなさい」
アリスは毅然としてヤンキーの恫喝にも動じない。
「なにィ……」
「ほらァ、強がらないで。ひとりじゃァ立てないんでしょ」
無理やり腕を掴んで引っ張り肩を貸した。
「うッううゥ……、アリス、よせよ。汚れるだろう」
ヤンキーのクセに遠慮がちだ。思ったよりもずっと純情みたいだ。
「私の心配よりも自分の心配をしなさいよ。どこなの。あなたの家は?」
「はァ、なんだよ。オレの部屋まで送るつもりか?」
「だって、ひとりじゃロクに歩けないんでしょう。ほらァどっちよ。はっきりしなさい」
「あのなァ。恥ずかしいだろう。女に肩を貸りて歩くのなんて……」
ヤンキーは少年のように唇を尖らせて文句を言った。
「じゃァひとりで歩けるの?」
少し突き放すような口ぶりだ。
「ううゥ……、こっちだよ」
仕方なくアゴで行き先を指示した。
「ハイハイ、世話のやける子ねえェ……」
まるで駄々をこねる幼い弟をなだめすかすお姉さんのようだ。
「なんて呼べばいいかしら?」アリスがヤンキーに訊ねた。
「えェ……、オレの名前か?」
「そうよ。大きな坊やって呼ぶわけにもいかないでしょ」
「ふぅン、まァな……。オレは聖矢だよ」
「ヘェ、聖矢ね。しっかり歩きなさいよ。重たいんだから支えきれないわ」
「ああァ、悪いな」
すっかりヤンキーも主導権を握られ意気消沈だ。雨の中をアリスの肩を借りて聖矢のマンションへ向かった。いつもの何倍も時間がかかってしまった。
高級マンション『ソレイユ』の一室が聖矢の部屋だった。聖矢が出したカードキーをかざしドアを開けた。
「さァ……、どうぞ」
「ヘェ、スゴいとこに住んでるのね」
アリスもあ然とした。
「別に……、オレの部屋じゃないからね」
「え、じゃァ誰の部屋なの?」
「あの人が、オレのオフクロに買った部屋だよ」
「ン、あの人……?」
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