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口移し
「えェ……、口移し?」
さすがにアリスも躊躇った様子だ。
「ああァ、頼むぜ。ひとりじゃ飲めねえからさ。イッテテェ……」
聖矢はわざとらしく痛がってみせた。
「もォ、しょうがないわね。ハイ、錠剤よ」
アリスはムッとした顔で解熱鎮痛薬の錠剤を三粒取り出し、聖矢の口に放り込んだ。
「なんだよ。口移しするんじゃないのか?」
聖矢は錠剤を口に含んだものの不満げな顔をした。
「はァ、わかったわよ。坊や」
小悪魔みたいに微笑んで、ペットボトルの水を口に含んだ。
「おいおい、マジか……?」
聖矢も軽い冗談のつもりで言ったのにアリスが本気にするとは思わなかった。
ゆっくりと彼女の朱い唇が聖矢の口へ近づいていった。
「ううゥ……」かすかに聖矢も呻き声をあげた。柔らかな唇がくっつくと聖矢は優しく華奢な腰の辺りに手を回し抱きしめた。
アリスにとっては初めての口づけなのだろうか。多少、動きがぎこちないキスだ。
「ンうゥ……」
アリスはゆっくりと口を開き水を注いでいく。
「ゴック……、ゴックン」
聖矢の口へと水が注がれ、口に含んだ錠剤を嚥下していった。
「ふぅ……、どう、坊や。クスリは飲めたかしらァ?」
おもむろにアリスは唇を離し聖矢に訊ねた。まるで保育士がやんちゃ坊主をたしなめるような口ぶりだ。それでも恥じらってか、ほのかに頬が紅く染まっている。
「えッ……、いやァ、ちょっと足りないな。もう少し水を口移ししてくれよ」
聖矢も少し照れたように視線を逸らし苦笑いを浮かべた。
「なッ、なによ。もう少しなの……?」
アリスも不満げな顔で聞き返した。
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