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アリス
「キャァッ、私、カレーライスには目がないのよ。一週間連続でカレーでも飽きないわ」
またアリスは歓声をあげボクに抱きついてきた。また柔らかな胸の膨らみが押しつけられた。
さらにキスしそうなほど頬が接近して緊張してしまう。
「アッ、ハッハハ……、そうですか。良かったら召し上がっていきますか?」
一応、社交辞令として言った。まさか本気にはしないだろう。夜更けにカレーを食べるため隣りの異性の部屋へ上がり込む美女なんていないはずだ。
しかし彼女は抱きついて密着したままだ。恥知らずなボクの下半身は燃えるように熱く火照っていく。
「えッ、マジで?」
すぐにアリスは朗らかに訊いてきた。
「はァ、ど、どうぞ。アッハハ」
身がすくむような思いで申し出た。
表情が硬くなって上手に笑えない。頬が引きつったみたいなぎこちない笑顔だ。普通なら控えめに慎むと思った。
「じゃァ、遠慮なく。お邪魔するわね」
だが意に反してアリスは躊躇わずにキッチンの方へ歩き出した。勝手知ったる他人の家と言う感じだ。
「はァ、マジですか。あのォ、でもニンニク入りの特製カレーですよ」
ボクは彼女のあとを追いかけながら忠告した。確かに抜群に美味しいのだが若干、匂いには気をつけなくてはならない。特にアリスみたいな美女がニンニク臭いと何かと問題だろう。
「フフゥン、大丈夫よ。先月、セクシー女優も引退したしね。目下、絶賛失業中なの」
「はァ、そうですかァ」
残念なことだが先月リリースしたブルーレイがラストになる。
稀代のセクシークイーン姫乃アリスは惜しまれつつも引退した。
活動期間は短いがすべての作品が過去最高のセールスを記録している。ドル箱的なセクシークイーンだ。
キッチンへ入るとアリスはすぐに手を洗い始めた。急いでボクもカレーの入った鍋に火をかけ温め直した。
「あ、そういえばポチローのご両親は?」
アリスが手ぬぐいで洗った手を拭きながら思い出したように訊いてきた。
「はァ、父親が名古屋に転勤して、それに母親も着いて行きまして。母親の実家が名古屋にあるので、この部屋に住んでるのはボクだけです」
現在はボク一人だけ、ここ神奈川県美浦市の実家に残っていた。ここは母方の祖父の持ち物なのでほぼ無料で借りていた。
「フフゥン、じゃァポチローは、一人でお留守番なのォ。寂しいわねえェ……?」
またアリスは小悪魔みたいに微笑んだ。まるで女豹がか弱い獲物を狙うように目を輝かせた。
「ええェ、まァ、そういう事になりますねえェ。ゴックン」
無意識にボクは生ツバを飲み込んだ。引きつったように苦笑いを浮かべた。なんとなくイヤな予感がした。思わず背筋に戦慄が走っていく。
「ねえェ、ポチロー。お風呂は?」
セクシークイーンはリビングのソファに腰掛け寛いだ格好で笑みを浮かべた。
「え、はァ、お風呂ですかァ?」
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