第一話

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第一話

子供の頃から両親に聞かされている事がある。 我が家にはお狐様が見守っていて、昔からお狐様を守る事がお仕事なんだよ。 そう言って、いつも優しく頭を撫でてくれたお母さん。 お狐様を守るために木刀で剣の扱い方を教えてくれたお父さん。 子供ながらに、これが自分の使命なんだと心でそう思っていた。 いつかお狐様を守るその時まで、何も変わらず過ごせると…そう思っていた。 「結婚記念日だったらしいわよ」 「二人もなんて、まだ小さいのに可哀想に」 「誰が引き取るの?ウチは無理だよ、もう子供もいるし…年頃なんだから」 周りの大人がなにかを話しているけど、俺にはそれがなんなのか分からない。 両親の遺影の前で、ただただ呆然と現実を受け入れられずにいた。 学校に病院から電話があった時は分からず、先生に連れられて病院まで急いだ。 連絡をくれた祖父母と一緒に両親の回復を願っていたが、結局帰ってくる事はなかった。 カーブを曲がりきれずに起きた交通事故だったと警察の話を聞いていた。 葬式が終わるまでの長い日々、俺を引き取る人達で揉めていた。 頭が追いつかずに、家から飛び出して近くの神社に行った。 よく両親とお参りに来ていた思い出の神社、お狐様の銅像が出迎えてくれる。 大きくはないが、俺にとっては安心出来る場所だ。 ここに来た瞬間、目元が熱くなり…遺影の前で泣かなかった涙が溢れて来た。 「うっ、ふっ…うぅ…」 ポロポロと涙が止まらなくて、神社の前で大きな声で泣いた。 『泣いてるの?』と不思議な声が聞こえて、下を向いていた顔を上げた。 そこにいた者に驚いて、止まらなかった涙がいつの間にか引っ込んだ。 目の前にいたのは、人ではない…大きな体の狐だった。 着ぐるみで似たようなものを見た事があるが、これは着ぐるみなのだろうか。 大きな狐は俺に手を伸ばしてきて、涙で濡れた頬に触れた。 不思議と恐怖はなかった、きっと俺がお守りするお狐様はこんな感じなのかなって思ったからだ。 「……お狐、様?」 『私が怖くない?』 「怖くないよ、だって俺はお狐様を守るお仕事があるから!」 お狐様はよく分かっていないのか、呆然としている。 でも俺の名前を伝えると、納得したような顔をしていた。
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