第一話

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お狐様は俺を優しく抱きしめて、温かな膝の上で再び涙が溢れて来た。 いっぱい泣いて泣いて、落ち着いてきた頃にはすっかり空が真っ暗になっていた。 子供がこんな時間に外を出歩いてはいけないって自分でも分かる。 遠くから俺を呼ぶ祖父母の声も聞こえてきて、立ち上がる。 『行っておいで』 「ぅ…また、会えますか?」 『私はずっとここにいるよ』 お狐様の言葉を信じて、手を振って神社から出た。 心配した祖父母に泣かれてしまい、自分の軽率な行動に反省した。 祖父母はもうかなりの歳で、俺を引き取るのは親戚となった。 一度も会った事がないけど、せっかく引き取ってくれたから嫌われないようにしようと努力した。 掃除も料理も言われた事は何でもやった、成績も常に上位になるように頑張った。 一度も怒られた事はないが、褒められた事もなかった。 子供の俺は愛情に飢えていたが、それを口にする事なく両親に生前言われていた事を守った。 お狐様が見守ってくれる、だから俺はお狐様を守るんだ。 あれからお狐様の神社には行っていない、行ったらまた甘えてしまう気がした。 俺がお狐様に会いに行くのは、立派な俺を見てもらうためだ。 形見となってしまった木刀で風を切って、指先に重みを感じる。 空を見上げると、綺麗な青空が俺を見下ろしている。 お狐様と両親が見守ってくれているような温かな気持ちになった。 そんなある日の事、お風呂上がりで廊下を歩いていて偶然聞いてしまった。 「もう姉さんの遺産がないわね」 「あんなブランド物買うからだろ」 「仕方ないでしょ、あの子供を引き取った理由がこのくらいしかないんだから」 「だからって、もっと計画的に」 「早く使いたいじゃない、早くあの子供を施設に預けたいのよ…もうすぐ中学生なんだからもういいでしょ」 俺を引き取った理由は正直な話、何でも良かった。 生きるために、捨てられないために、必死になっていただけだ。 でも、施設に預けられるなら俺はいったい何を必死にしていたんだろう。
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