第一話

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朝と夜に家族分の食事を作って、休日は昼にも食事を作っていた。 掃除も埃を許さないほどピカピカにして、洗濯も全部していた。 家族というより、居候の家政夫と言われた方がしっくりするだろう。 もっともっと必要とされないと、この家にいられないのだろうか。 アルバイトが出来る年齢なら、何とか一人暮らしとか出来るだろうけど今はアルバイト出来る年齢ではない。 近くに施設がないから施設に入れられると、この地から離れてしまう。 お狐様がいるこの場所から離れたくない…俺にとって縋れるのは、この人達だけなんだ… 中学に上がっても、今以上に頑張って親戚の人達に尽くした。 俺自身を必要としていなくても、俺の今の居場所はここしかいないんだ。 「お前、居候のくせに図々しいんだよ!」 「か、返して下さい!」 「うるせぇよ!お前なんていなくなれって皆思ってるんだからな!」 親戚の家にいる一人息子は俺ととても仲が悪い……一方的だけど… 同じ中学に通って、帰る場所が同じだから会うのは当然だ。 今までも石を投げられたり、砂を掛けたりしたが仕返しはしなかった。 俺が鍛えているのはお狐様を守るためだ、だから俺はケンカはしない。 それがイラつくのか、こうしてよく絡まれている。 でも、今日はいつもと違い…俺は顔色を変えて彼に近付く。 家に置いていた筈のお父さんの形見の木刀を握っていた。 俺が焦っているのが気分いいのか、俺の前で木刀を揺らしていた。 「こんな汚いもの大事にしてるのかよ!」 「本当に大切なものなんです、お願いします!返して」 「うるせぇよ!こんなもの!」 力任せに木刀を投げると、その木刀は宙を回って川の中に落ちてしまった。 後ろから大笑いする声が聞こえたが、そんな事より木刀を探しに川の中に入った。 靴や靴下を脱いではいるが、ズボンは濡れてしまった。 構わず周りを見渡して、木刀は何処にもなくて…それでも探し続けた。 外が薄暗くなって、やっとそれらしいものを手にした。 岩にぶつかったのか、折れてしまって半分となった木刀を抱きしめながら川を出た。 ポツポツと雨が体を濡らして、何処かで雨宿りしようと思った。 こんなぐずぐずになった顔を親戚に見られたら怒らせてしまう。 俺の泣き顔を見ると「そんなに嫌なら出て行け!」といつも言われてしまうから、落ち着いてからじゃないと帰れない。 今は俺が遅くなっても心配する人は誰もいないから大丈夫。 歩いて歩いて、無意識に来たのはあのお狐様がいる神社だった。 雨のせいなのか、とても悲しいような…そんな感じがした。 フラフラと神社の前まで歩いて、プツンと糸が切れたかのように倒れた。
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