京都河原町

1/2
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

京都河原町

 俺たちの住む兵庫県神戸市。いや、その隣の隣の市。そこからJRと阪急電車を乗り継いで二時間弱。  俺・増井真也と彼女の竜崎香織さん、そしてクラスメイトの片瀬悠也と由比(ゆい)聡子さん。悠也のことは、今さら「くん」などという敬称をつけるのはむずがゆい。だから、普段呼んでいる悠也(ユーヤ)という呼び方で失礼する。一方、由比さんは竜崎さんの親友。竜崎さんは彼女のことを「聡子ちゃん」と呼んでいるが、俺にとって竜崎さんと同じような才女の由比さんを名前で呼ぶのは恐れ多い。  地下駅である阪急京都河原町駅の改札を出て、俺たちは連れ立って地上に出た。 「おぉ~。意外と都会」  俺がそう言うと、悠也も同意する。 「何たって、かつての首都だからな」 「お前、そんなかしこぶるな……よ」  そう茶化してしまい、俺は口をつぐむ。ここにいる悠也も竜崎さんも由比さんも、これから大学入試を控えている。とっくに専門学校への進学を決めた俺なんかとは違う。 「んだよ、真也。余裕かましてんじゃねーよ」  ふいに聞こえてきた悠也の声とそれからくらうであろう膝カックンの気配を察し、俺はひらりと身をかわした。 「真也はそうこなくっちゃ」 「どういたしまして」  俺たちがそんなバカなことをしていると、竜崎さんと由比さんにたしなめられた。 「ふたりとも何をしているの? 早く集合場所に行かなきゃ」 「そうだよ。遅れちゃう」  確かに。俺はスマホの時計を見た。集合時間まであと十五分。少し急いだ方がいい。ふと悠也を見やると、さっきとは打って変わって真面目な顔つきになっている。 「そうだな。ちょっと急いだ方がいいね」  ちょっと待てよ。それ、俺が言いたかったせりふ……。 「じゃあ、真也。道案内、頼むな」  まじか悠也。俺に、道案内という大役を任せてくれるというのか。  俺は平静ぶって言葉を紡ぐ。 「うん。俺についてきて」  盗み見た、俺を見つめる竜崎さんの期待のこもったまなざしにしびれそうになってしまうが、歩みを進める。  京都は数えるほどしか訪れたことがなかったが、下調べはばっちりだ。きっと迷うことなく集合場所の円山公園まで三人を案内することができる。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!