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参考文献
本エッセイは一応自然科学を下敷きにした読みものです。内容のバックボーンをご紹介するのは著者の義務であると考え、発展的な学習に役立つ本をリストアップしておきます。
なにより著者は低学歴の門外漢であります。できうる限り内容には正確性を期したつもりですが、素人の耳学問ゆえの誤謬、勘ちがい等はあるでしょう。ぜひとも読者自身でも学習を進め、進化論(とその他の学問領域)の真髄を体験してみてください。
◎1章
タイタンの妖女 著 カート・ヴォネガット・ジュニア 訳 浅倉久志
SF小説史に燦然と輝く古典的名著であります。ストーリー、文体、訳者、すべてが完璧に調和した傑作中の傑作でありましょう。
通常あっと驚く結末の用意された作品は、一度読めばもう十分というように読み捨てられることが多い。本作もその系譜なのですが、あまりにも完成度が高すぎて二読、三読しても都度、新しい発見、感動があります。故浅倉御大の訳も実によい。
火星陸軍突撃隊に召集された冴えない男・アンクが、世界の理を記したメモの著者を知るシーンなんて何度読んでも魂が震えます。UNK。
終りなき戦い 著 ジョー・ホールドマン 訳 風見潤
ミリタリーSF小説史に燦然と輝く名著であります(またか)。底意に流れているのはヴェトナム戦争帰還兵の心情ではありますが、そのあたりの事情を知らなくてもエンタメ要素だけですでに大傑作、そのうえ社会性を持たせるとは、ホールドマンの才知には脱帽です。
これを読んでしまうともう、並みのミリタリー小説なんか読む気も失せてしまう。というかこれを超えるミリタリーSFは今後出てこないでしょう。完成度が高すぎる。故風見氏の訳も申しぶんなし。ぜひご一読ください。
超対称性理論とは何か 宇宙をつかさどる究極の対称性 著 小林富雄
標準理論は重力を統合できないため、いま一歩のところで足踏みしております。そこで統一理論として様々な説が百家争鳴のように乱立しているのが理論物理学の世界であります(超ひも理論、膜宇宙論など)。
そのなかでも有望株なのが超対称性理論ですね。ほとんど内容は覚えていませんが、素粒子論の基本を解説してくれていたはず。そうじゃなかったらゴメン。そもそも素粒子論を1冊で理解しようなんてどだい無理な話ですので、どんどん類書を渡り歩いて少しずつ力をつけていってください。
日本人論 著 渡部昇一
碩学・渡部昇一氏がぶちあげた日本人論であります。この本のどこかに本地垂迹について触れられていた気がします。そうじゃなかったらゴメン。
渡部氏は専門が英文法なんですけど、その知識の幅にはまったく驚くほかありません。もうこういう人が今後の日本から輩出されることはないんでしょうなあ。まさに日本最後の碩学でありました。
渡部御大は日本の歴史シリーズも書いているのですが、日教組に牛耳られた自虐史観しか知らない読者は目からうろこ、青天の霹靂のような衝撃を受けるはずです。併せてどうぞ。
◎2章
神は妄想である 著 リチャード・ドーキンス 訳 垂水雄二
ドーキンスはイギリスの動物行動学者ですが、進化論を啓蒙するという彼のライフワークに立ちはだかるのが宗教畑の人びと。この本はまあ容赦がない。徹底的に宗教をこれでもかと排撃しています。
日本では新興宗教はダメで仏教や神道はOKという風潮ですが、ドーキンスは差別をすることなく宗教そのものを批判していますね。わたしも全面的に賛成です。ただひとつ彼と意見の相違があるとすれば、(人に迷惑をかけない限り)信仰の自由はあってもよいという点。でもまあ、往々にして宗教は人に迷惑をかけるので、結局同じことですが。
利己的な遺伝子 著 リチャード・ドーキンス 訳 日高敏隆
ウィリアム・ハミルトンやジョン・メイナード・スミスなど、進化論に数式を導入して理論的に昇華した人びとの功績を、一般向けにわかりやすく解説した名著中の名著です。
進化論の要旨、群淘汰の誤り、自然淘汰の対象、果てはすっかり人口に膾炙したミームという単語まで、この本が発祥なのですよ。いかに充実した内容かわかろうというものです。わたしは本書を読んで世界観ががらりと変わりました。本書を読まないでいるのは人生の損失であると断言いたします、ハイ。
類書の「延長された表現型」、「盲目の時計職人」もセットでどうぞ。
核の冬 第三次世界大戦後の世界 著 カール・セーガン 訳 野本陽代
核の冬とは、核爆発によって惹起された森林火災や都市火災の煤煙が地球を覆い、長期的な気温低下を招くという仮説のことです。
セーガンは一流の天文学者でして、数々の立派な功績を残しています。また科学啓蒙家としての一面もあり、生前は日々えせ科学と戦ってきました。核の冬は実証できないのが難点の理論ではありますが、メカニズムは知っておいて損はないでしょう。ガンダムのコロニー落としもこの理論を下敷きにしているふしがあります。
女の由来 もう1つの人類進化論 著 エレイン・モーガン 訳 望月弘子
人類が海辺で進化したというトンデモ理論をぶちあげたのが本書。トンデモ理論なんですけど、なにか妙に納得してしまう魅力を放っているのも確かです。
こうやって筋道立てて煙に巻かれると、つい信じたくなってしまう。大まじめに読むのではなく、頭の体操として一読してみてください。唸らされること請け合いです。実に痛快です。
エピジェネティクス 新しい生命像をえがく 著 仲野徹
エピジェネティクスとは、いま分子生物学でホットな研究領域とされている現象であります。本エッセイでは(簡略化のために)遺伝子の突然変異のみが子孫の形質を決めると書いたけれども、実際ははるかに複雑です。
実はシトシン塩基にメチル基がくっつくことで、遺伝子のオン・オフが調節されているというのです! 本書はエピジェネティクスがメインではあるけれど、バックボーンとして分子生物学の基礎も解説しています。
ただ分子生物学は前提知識を求めている入門書が多いので(前提知識の必要な入門書とはいったい……)、めげずに類書を何冊もあたってみてください。そのうち天啓のように「あ、そういうことね!」とパズルのピースが頭のなかではまるでしょう。
◎3章
恋人選びの心 性淘汰と人間性の進化 著 ジェフリー・F・ミラー 訳 長谷川眞理子
進化心理学を一般向けにわかりやすく解説した著書です。一般向けではありますが、決して俗受けするような怪しい内容ではなく、れっきとした研究者の手になるもの(進化心理学はなぜなに物語に終始してしまう傾向があるので、科学的根拠の乏しい俗っぽい言説が横行しております)。
本書では性淘汰とそこから導き出される心理的な傾向を鮮やかに描き出しています。進化心理学は男性の浮気性や女性の高望みなども説明できてしまう実用的な学問です。進化心理学を知らないまま世を渡るなんて、サンダルで奥穂高岳(3,190メートル)に登るようなものです。
ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト 著 ニール・シュービン 訳 垂水雄二
進化論ではしばしば、〈ミッシング・リンク〉という概念がアンチ勢から提出されます。魚類から両生類への途上にある生きものがいない、よって進化論は誤りだ! という主張ですね。
はい、残念でした。本書ではまさにその中間種であるティクターリク(ひれを手足のように使っていた生物)の化石を見つけた物語が語られていますね。本編でも何度か触れたけれど、生物進化は既存種からの分岐です。本書を読み、知見を深めていただければ望外の幸せ。
悪党パーカーシリーズ 著 ドナルド・E・ウェストレイク 訳 小鷹信光ほか
アウトローを描き、エンタメ要素を満たし、かつ主人公に魅力を持たせるのがいかに難しいか。それをやってのけたのが悪党パーカーシリーズであります。
パーカーは(ハンディ・マッケイを助けようとするなど)仲間思いに見えるけれど、それは自身の評判が落ちるのが不利益になると喝破しているからです。彼らのようなアウトローはひと仕事終えれば解散する、1仕事=1チーム制を敷いています。毎度仲間を裏切っているようなやつは信頼を失い、誰からも誘ってもらえなくなるのですね。そうした人間行動の哲学も学べるでしょう。
ほぼ絶版で入手困難でしょうから、大都市の図書館を利用してください。わたしはそれで全編読破しました。こうした手法を乞食読書と呼びます。
ゴッドファーザー 著 マリオ・プーヅォ 訳 一ノ瀬直二
イタリアのシチリア半島出身のマフィア、ドン・コルレオーネとその家族のゆく末を描く大長編です。
この小説を読むと、そもそもマフィアとは民間の政府のようなものだということに読者は気づかれるでしょう。依頼人はもめ事をドンへ持ち込み、ドンはそれを(荒っぽくかつ迅速に)解決してくれます。その代わりドンは依頼人に心理的な借りを作り、別の機会に(便宜を図るなどして)返してもらう。ドン・コルレオーネは立法、行政、司法のすべてを司っているともいえるでしょう。
物語の血なまぐささや心理描写のうまさもさることながら、マフィアとはなにか、政府とは公に認められた暴力団ではないか、政府にできないことを民間業者がやっているのではないか――。読了したあと、読者には様々な疑問が残っているはずです。
進化と人間行動 著 長谷川寿一、長谷川真理子
日本の進化論者の第一人者である長谷川夫妻による、進化の包括的な教科書ですね。進化論は生物学、遺伝学、心理学などを総合した学際的な分野ですので、本書の価値はより際立つでしょう。
内容も平易で初学者も親しみやすい良書であります。
人間の本性を考える 心は「空白の石版」か 著 スティーブン・ピンカー 訳 山下篤子
ヨーロッパの道徳哲学か、キリスト教的な人間絶対主義のせいかわかりませんが、人間と動物を切り離して考える人がいまだに多数派のようです。
本書は心が脳の産物である以上、そして脳が遺伝子の産物である以上、生まれてきた時点でなんらかの初期設定がなされているはずだ、という主張を強力に推し進めています。また従来から唱えられていた真っ白な石板仮説を、徹底的に批判してもいますね。科学に直観やこうであってほしいといった願望はご法度です。人類は動物である以上、本性にある程度支配されている――。わたしにはごく自然な結論のように思えます。
言語を生みだす本能 著 スティーブン・ピンカー 訳 椋田直子
こちらもピンカー氏の著作でして、「人間の本性を考える」の続編的な内容となっております。氏は認知神経学者としての立ち位置から、ノーム・チョムスキーの言語学をさらに発展、言語が遺伝的に刷り込まれた本性であると喝破していますね。
前作とセットでどうぞ。
水からの伝言 著 江本勝
水が日本語を理解できるという驚天動地の証拠を実験によって示したと(勝手に思い込んでいる)世紀の怪文書ですね。参考文献に挙げたけれど、読む必要はまったくありません。
もしどうしても読みたいのであれば、必ず下記の「水はなんにも知らないよ」と読み比べてください。いかに本書が非科学的であるか、よくわかるでしょう。
読者はこう思うかもしれません。「氷の結晶が言葉によって変わるというのは真っ赤な嘘であろう。けれども美しい言葉をなるべく使おうという道徳的な含意はそれ自体、立派なものである。なぜそう目くじらを立てるのか?」。
道徳と科学はまったくの別物だからです。道徳を教えるのになぜ科学を捻じ曲げる必要があるのですか? 「ブラッドレーの請求書」でなぜいけないのですか? 科学は客観的な事実を追究する領域です。「こうあるべきだ」などという願望の入り込む余地はない。
反対に道徳領域に科学を適用する必要もありません。男性は遺伝的に浮気性で、潜在的にみんなレイピストですが、だからといってそうした性向を許す必要はない。科学が証明した客観的事実が道徳に相容れなければ、道徳を優先した社会を作ればよいのです。
水はなんにも知らないよ 著 左巻健男
化学を専門とする著者が、水の結晶についての怪文書に対する反論として上梓した渾身の一冊。怪文書への答え合わせというメインの用途以外にも、科学的な姿勢を養ううえでたいへん有益な良書であります。
怪文書のほうはまったく読む必要はないけれど、こちらはぜひご一読ください。現代がいかに多くのえせ科学に包囲されているか、戦慄とともに思い知るでしょう。
悪魔に仕える牧師 著 リチャード・ドーキンス 訳 垂水雄二
またリチャード・ドーキンスです。くり返し何度も出てくるのは、彼の著作がそれだけすばらしいからです。
本書はエッセイ集となっておりますが、宗教批判に比重が置かれていますね。特に9.11世界貿易センタービルへの旅客機テロについては、ドーキンスの怒りは無関係のはずの読者すら委縮させるほど烈火のごとしであります。宗教色のまだまだ濃いイギリスでこうもあからさまにやれるのは、世界広しといえどもドーキンスくらいでしょう。
◎終章
正統の哲学 異端の思想 著 中川八洋
日本の大学は東京大学をはじめとして、やたらと共産思想、およびマルクス・レーニン主義に染まっています。なにかと人権、フランス革命賛美、平等などの(実は非常に有害な)思想がはびこっているのはそのためなのでしょう。
本書は民主主義は独裁に必ず至るので制限しなければならない、平等や人権は共産主義・全体主義への布石などなど、おそらくいままで読者が考えたことすらなかった世界へいざなってくれます。断言します、非常に有益な読書体験になるはずです。日本人必読とすらいえるかもしれません。
自由の倫理学 リバタリアニズムの理論体系 著 マリー・ロスバード 訳 森村進ほか
共産主義、社会主義を払拭するにはその対極に位置する思想に触れるのがいちばんです。本書で紹介されているリバタリアニズムがそれです。本思想を一言で表現するなら、〈所有権の帰属は個人にある〉。これだけです。
所有権を突き詰めていけば、税金は国家という泥棒からの収奪になるし、売春や臓器売買は(個々人が自分の身体を売っているのだから)禁止されるべきではない、となります。わたしはリバタリアニズムからあまりにも多大な影響を受けているので、上記の文言になんら違和感を覚えません。リバタリアニズムはいっさい妥協しません。論旨が徹底しており、手前みそな部分はまったくありません。
ぜひ一度本分野に触れてみてください。すさまじい衝撃を受けるはずです。なお訳者の森村進氏は日本ではめずらしいリバタリアニズム研究者で、その第一人者。相当の切れ者らしく、別の分野(国際政治だったかな)の研究者から「まともに議論できたのは森村進だけだった」と高く評価されていました。訳者自身もリバタリアニズムの著作を一般向けに出しているので、そちらも併せてどうぞ。
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