派遣のヒンカク

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派遣のヒンカク

 派遣会社を通じて働く場合、雇用契約は派遣会社と結ぶけれど、実際の勤務地は派遣先企業というパターンが多い。派遣先企業での勤務が始まると、派遣会社の担当者は時々やって来る程度で、通常は派遣先企業の社員達に囲まれて働く。もしも勤務中にパワハラとかセクハラとか、なんらかのトラブルに遭遇したら、派遣会社の担当者に相談することになる。  「派遣先企業」「派遣会社」などと繰り返し書いているとややこしいので、ここから先は便宜上「派遣先企業」をA社(A株式会社)、「派遣会社」をB社とする。  私が採用されたA社は、B社の社員がB社に籍を置いたままA社で働く「在籍型出向」をしている職場だった。なので、オペレーター研修担当者も、現場でオペレーターに指示する管理者(SV)も、彼らを束ねる現場責任者(副センター長)も、B社の社員だった。ちなみに、このコールセンターのトップであるセンター長は、A社のお偉いさんで、現場の指揮は一切執らない(しかし、ノルマ等の口は出す)。実質的な運営は、副センター長以下、B社に委託されていた。  採用の連絡をもらって1週間後、A社での新人研修が始まった。  まずはA社の基本業務の説明から始まり、組織の中でのコールセンターの位置付け、担う役割などを教えられた。私達が就くオペレーターという存在は、企業とお客様を繋ぐ窓口であり、いわば企業の顔であること。お客様からの問い合わせには迅速に答えることが大切ではあるが、同時に正確な回答・情報提供が絶対であること。そして、B社から派遣されているとはいえ、オペレーターのミスや失態はA社に損害を与え、ひいては仕事を請け負っているB社との契約にも影響を与えるということ。派遣だから、短期勤務のアルバイトだからという軽い気持ちではなく、Aだという自覚を持って業務にあたるように――等々、仕事に向かう姿勢(スタンス)をコンコンと説かれた。  実践的な研修では、まずコールセンターシステム(CTI)(Computer Telephony Integration)の勉強。パソコンの内部ネットワーク(イントラ)画面を見ながら、業務に必要な操作を繰り返し練習した。A社は物販、物流などの業務を担う国内大手企業だ。CTIでは、オペレーターのスキルに合わせて、管理者が入電内容をある程度振り分けることが出来る(そのためにIVRがある)。新人オペレーターに振り分けられるお客様からの問い合わせ内容は、物販について(取り扱い商品、店舗の営業時間、店舗の場所)と、物流について(引受可能な荷物の中身、荷物の所在、配達・再配達の可否)の2領域に限られていた。もちろん研修期間中に、これらの知識の習得を求めているわけではない。お客様が知りたい情報・回答が、イントラの中のどこを見れば入手出来るのか(記載場所)、またどの部分を案内すべきか(情報の見方)、それらを覚えることが求められていた。
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