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仕事
大人になって手術してもう数年たった。
手術は無事成功したが、あれからも色々あった。
子供の時は自然に自己防衛なるものが働いていたのか?
ずっと眠っていたし、嫌なことはほぼ忘れている。
だが、大人になってからの手術はそうはいかなかった。
手術は成功したし、すごく成功の確率が低い手術でもない。
ただ、これから前に進むための、手術。
手術が成功して落ち着いたら、キラキラ明るい世界が広がっている予定だった。
あの時は、周りの人達にも支えられ、暖かい気持ちをたくさんもらった。
その感情、気持ちを忘れないように鮮明に焼きつけた。
『色々な全ての感情を忘れてはいけない』
しかし、その鮮明に焼きつけてしまったことが
仇になり、私自身の心に深く傷をつけてしまった。
あの日のストレスや入院の日々。
全てそのまま自らの心に刻んでしまったのだ。
自分の限界を知らぬまま……
♢♢♢♢
小さい頃から病気で先生や看護師さんにはとてもお世話になった。
命の恩人だ!
だから、何か私にも恩返しができればと
何か人のために役にたちたいと医療の仕事で働きたいと考えていた。
───医師は、頭が悪いから却下
───看護師は、健康じゃないとできない
高校卒業する時に、進路に悩んでいた。
本当は、看護師の道に進みたいとも考えたが、原因不明の頭痛と吐き気、目も見えなくなることが
度々あり、それこそ難しい。
高校卒業して就職するか……
進学しても勉強をしないだろうと就職を選んで
お金を稼ぐことにした。
就職したのは、鮮魚の仕事。
何故か忙しくないだろうと、デパートの地下の魚屋さんへ面接をしてしまった。
面接で話を聞くとここはとても忙しいらしい。
内心青ざめている私。嫌な予感がする……
面接官は、地元の先輩だったようで、即採用。
本当は暇な店舗が良かったし、出来るのか不安はあったけれど働いてみると
職場は、楽しかったし勉強になった。
何かやりたいことはないか、このままでいいのかと葛藤しながら、仕事をしながら3年もの日々が過ぎた。
何か自分にはできるのだろうかと思い出す度、考えていた。
そんな時に医療事務の資格をとれば、病院で働けるとわかり医療事務の講座へ通うことにした。
教材は何冊もあり、点数本など分厚い本が何冊もあったが、幸い家から近い所に学校があり、無事資格をとれた。
資格を取得した後は、すぐに社員として病院で働ける訳ではなく、派遣で大学病院などで経験をつまないといけなかった。
初心者が初めから開業しているクリニックなどで採用してもらえるなんて奇跡にちかい。
そう、あまい世界ではないのだ。
初めは、派遣で大学病院で働き、総合の窓口で受付の担当をする。
医療事務の会計は、点数で管理され、処置や行った項目によっては、加算がされ、最後の合計点数を円になおし、それぞれの負担割合をお支払いいただく。
通常の人だと3割分を本人が負担、7割が保険組合という保険証の組合(会社や市町村)に請求される。
保険組合へ7割分を請求する時は、月末に締めて月初に請求となるため、期限までに請求書を完成させて提出しないといけない。
ただ、それがまた複雑で請求だけすればいい訳では無い。
その時に行った診察内容、処置などに対して適切な病名がついているかどうか。
また、その請求する項目によってはコメントをつけないと減点されお金がもらえないという仕組みだ。
そういう複雑な状況な為、医療事務としての経験がものを言う。
私も初心者なわけで、すぐに会計などさせてもらえる訳ではなく、ひたすら毎日何百人もの人の受付をこなし、症状によって専門科へ振り分けたり、時にはご高齢を一緒にご案内したりもした。
晴れて1年以上もの月日は流れたが、会計や請求業務を任されることになった。
大学病院なので、各科に500人は患者さんの数があり、1人2科任されていた。
1人2科だから毎月1000人ものレセプトを処理しないといけないし、昼間の時間に会計業務も担当になった時は、全科の会計を計算しないといけない。
大変な仕事ではあったが、私にとっては助けてもらった医療従事者の方への恩返しでもあったし
嫌ではなかった。寧ろ天職とも感じていた。
病院での仕事は、とても楽しかったし、
とてもやりがいがあって
「さっきはありがとう」とわざわざ受付まで言いにきてくれる患者さんがいる度に嬉しくなった。
一番やりがいがあり自分を取り巻く世界がキラキラしていたこの頃に、突然手術の話になった。
大人になってからの手術は、この頃の時期である。
長く休みをもらうにも迷惑をかけてしまうので
退職して手術に専念することになった。
この頃は、タイミング良く大学病院の先生から名医の先生を紹介して貰えて、紹介してくれた先生から入院中も暖かいお言葉のメールを頂いたり
地元のバイト先の先輩がお見舞いに来てくれたりととにかく心が寂しくなることはなかった。
ただ、夜になるといつものように恐怖に負けそうになり、涙が止まらなかったのだ。
皆さんからの暖かい気持ちを、出来事を忘れないようにしようとしたことが間違いだったのか、
手術が無事終わり回復しているはずなのに、新しく派遣で働いた職場では何かされた訳でもないのに苦痛を感じていた。
何かキツい事を言われた訳もなく、むしろかなり親切にしていただいて、ひと伝いに社員として採用しようと考えているみたいどう?と聞かれたくらいだ。
もちろん職場は地元でも有名な病院でとても嬉しいお話だったのだが、残業がとても多かったようで何が原因かわからない、毎日の苦痛とさらに残業も増えてしまったらと考えると気がのらなかった。
体調が落ち着くまでは、派遣の契約が満了になる度に別の医療期間で働いた。
♢♢♢♢
医療事務の資格をとってからあっとゆう間に月日が経ち、キャリアも10年以上となったころに
ある先生と出会った。
その頃には、手術後、派遣で職場を転々としていた事がリハビリともなり心の状態も落ち着いていた。
今はこのクリニックで働いているが、1つの前の所で7年も続いていた。
残念ながら7年も続いた職場は結婚を期に通勤が難しくなり退職となったのだ。
新しいクリニックで出会った
その先生は体育会系で爽やかで誰とでも話しやすそうな感じだというのが最初の印象だった。
いつも、看護師さんと仲良く話しているか暇があると寝ていることが多い。
だが、働いていく中で最初の印象と少しずつかわっていった。
仲がよくなると話しやすくていい先生だとは思うけれど、嫌われると大変そうなだ。
信頼している看護師さんには、色々なことを任せたりしてくれるが信用がない看護師さんには仕事を一切任せない。
遠目で大変そうだな。と感じながらも私は自分の仕事をこなし、医師や看護師との連携をはかり、仕事が円滑に進むように心がける。
職場は、みんなオープニングスタッフで入った。
開院ともあり、準備をしたり、流れが決まってなかったりと大変だった。
業務もとにかく終わらせないといけない仕事が山ほどあり、本当に大変で事務はゆっくり談話する時間ももったいないくらいだった。
早く仕事を終わらせてなるべく残業したくない……早く帰りたい。
業務が落ち着くまでは、遅い時は23時まで残っている時もあった。
また業務が落ち着いてくれば、イザコザもたくさんおきるものだ。
私はできれば波風たてたくないし、噛みつかれることがなければ戦わない性格。
人と上手く馴染めない私。
上手く付き合えるように気をつかいながら接する。
事務員は私を入れて5人。
会計、レセプトという請求まで経験があるのは
私ともう1人だけ。
月末までには今月分をチェックして来月頭にはレセプトの確認をしていくのが望ましい。
まずは出来ることをしようとこなす。
オープニング当初からここまで、無理にエンジンをフル回転させていたし、仕事を振るにも、みんなも手一杯だろうと、振れず……
とにかく限界がきていた。
働いて数ヶ月も時間が経つと5人の内2人は楽をしたい人、3人は仕事をこなす人と分かれる。
2人は経験があまりなく、仕事もしない上に上司に取り入るのが上手かった。
────どうしても、上にたちたかったのだろうか?
────上にたって何がいいのだろうか?
最初はみんな同じスタートだったが、役職をつけてもらえるよう話をしたのか『副主任』と2人任命された。
『副主任』になった2人はどんどん仕事をしなくなり、ひっきりなしに鳴る電話も『出ない』と言うようになった。
シフトの休みさえも他の職種の人に気がつかれないように一番忙しい所で休み、残りの3人には忙しい日に出勤するようシフトを組まれた。
『休みの希望は2日間しか出せない』
どうしても休みが欲しいからと有休を申請しても
有休が第1希望で他1日となる……
ことを荒立てたくはないが、どうしてもこの日は親戚との集まりもあるし相談させてもらっても
急に怒りだし「上司に言うから!」と言われその後上司に呼びだされた。
ここまでくると、私も流石にここではこれ以上働けないな、と確信した。
・家族や友達との時間が取れなくてそれでいいのか?
・自分のやりたいことがあるのに、仕事の為だけに時間を使っていいのか?
私の中で大きな疑問が浮かびこのままでいいのかと問いかけられているような気がした。
どんなに頑張っても、メンバーのことを私なりに大事に想い、たくさんある仕事を先回りしてこなしたりもしたけれど
『無駄な仕事』『やらなくていい』など言われたら……
限界ギリギリで、それでも自分で自分を追い込んで頑張っていたが、何かが崩れる音がした。
この人達は、人の気持ちもわからないモンスターのように思えた。
仕事が多くてゆっくり出来ていないのなら電話にも出られないと言われても納得出来ただろう。
だが、忙しく働いている隣りで2人で話しながらお菓子をボリボリ音をたてて食べている。
自分達の欲求の為だけに、人のことは、踏み台にしても構わない。とにかく楽にお金を稼げればいい。と言っているかのよう……
それからは、仕事を言われる事だけすることにした。
相手に感謝されなければ、意味もない。
感謝されたいからしていた訳ではないのだけれど、誰でも『頑張ってるね!』って認めてもらえなければ、必要ない動力になってしまうしやりがいもない。
日々平和に生活できればいいと考えていたけれど、「その仕事無駄だよ。必要ない」と言われて、とても悲しかった。
そして、必要ないと言われていた業務は、凄く大事な業務だけれどね……医療事務経験者ならわかることなのだけど。と心の中で
『仕事ができないやつ』
と汚い言葉がすぐそこまで出てしまいそうになる……
─────数ヶ月経ち
『無駄』と言われた業務は副主任2人が何事もなかったかのように、恰も自分達が考えてこなしてるかのようにしれっと行われていた。
『自分達が言った言葉を忘れてしまったのか?』
『それともわかっていてしているのか?』
世の中そういうものだね!と思いながらも恥ずかしいと思わないのかな?と疑問にも思う。
ここの小さな世界、空間では彼女、彼ら達が絶対だ!
事務側の上司と副主任の3人不思議なくらいの結束力。
何かあれば、裏で根回しをし、足を引っ張り合う。
『上が決めたことが絶対!』
そんな空間に感じられていて、働いて1年程すると毎日が苦痛で、その頃に始めたのが、エブリスタのエッセイだった。
何かこの事を記録に残したいと考えていたのと
昔から書きたいと思っていた気持ちをエブリスタではじめた。
毎日休憩になると近くのスーパーでご飯を買ってスーパーの敷地内で1人音楽を聴き、外の空気に触れながらエッセイを書いたりしてストレスを少しでも軽減できるようにしていた。
スーパーの敷地内には、至る所にベンチがあり、
室内と屋外があった。
私は、決まって屋外。寒くても上着を着ていればなんとかなるし、外の空気を吸って気分転換にもなった。
ここにくると、どっと疲れている自分がいる。
仕事をこなしている時は、集中しているから感じないのだが……
休憩中は、きまって
『ああ、私、命削られてる気がする……』
と思ってしまうのだ。
そろそろ辞めようと心に決めていた。
どこかタイミングがいい所で。
♢♢♢♢
ある朝
最寄りのバス停から職場まで歩いている途中に
細い一本道がある。
いつものように仕事を辞めよう、と決心して
いつ言うか考えていた。
この道は風が吹き抜けることなどないのだが、
その日は、フワッとなんと不思議な生暖かい風が吹抜けてゆく。
思わず、目を見開いだ。
びっくりして周りを見渡してしまったし、その後風が吹いてくるのか気にしていたがそんな事もなく、何か言葉では説明できない感覚で
『ああ、私の居場所はここではない』と言われていると感じてしまったのだ。
♢♢♢♢
その日の夕方、ある看護師さんに飲みに行こうと突然誘われる。
「先生も一緒だよ」って3人で飲みに行くことに なった。
そう、あの体育会系の先生。
その先生は、一番若手で私と歳もあまり変わらないし、話しやすいようで話にくい……
仕事には、こだわりがある。
そう、嫌われると「俺の患者さんには一切触れるな!任せないぞ!」そんな印象の先生。
飲みに誘われるのだから、嫌われているわけではないとホッと胸をなで下ろす。
いつも頑張ってるから、労いの為にご馳走してくれるのかな?と嬉しくなりながらお店に向かった。
いや、寧ろ心の中ではスキップをしていた!
先生は、別の所で今日は勤務の為遅れてくるとの事で、看護師さんと2人で話していた。
2人では、色々なことを話した。
主に職場のことだけど、事務のこと、看護師のこと。
この頃には、私にも味方をしてくれる人が多くいた。
事務以外の職種の方々だ。
他の先生にも「上の2人は全然仕事できないけどどうにかして欲しい」やら2人の色々な苦情を言わることも多くなったし、
看護師さんと事務側と一緒に仕事をした時に
その仕事もほぼ私がこなしていることもあり、看護師さんからしたら仕事をしない副主任2人をよく思ってなかったようだった。
看護師さんは職業上、人をよく観察している。
やはり、副主任2人の態度が鼻についたのだろう。
上司にも看護師側から副主任2人の事で改善して欲しいと意見があったらしい。
何か雑用で出来ることはあるか?とドライバーさんも率先して手伝ってくれていた。
「あの2人は絶対手伝ってやらない!」
と深く関わらないドライバーさんでさえも味方だった。
周りの人達が助けてくれる程
とても心強くて辞めようと思っているなんていえなかった。
今でも助けてくれて支えてくれていたこと
とても感謝している。
一緒に飲んでいる看護師さんとも色々と思ってる気持ちを打ち明けた。
『もう限界、辞めようと思っていると』
♢♢♢♢
お店に先生が来てからは、先生が話したかった事があったのだと本題を言われる前からわかってしまった……
『なんだよ、労いではなかったのかよ〜』
そう心の中で、内心ガッカリしたけれど、2人に周りから固められる感覚で恐怖すら感じた。
『俺たちと一緒に仕事しよう!』
そう、先生から言われた。
何故か認めてもらえた気がしてとても嬉しかったし
例えるなら、人気アニメの船長がいて仲間がいて
一緒に大海原へ出発する感覚にも感じてしまって私の居場所が出来た気がしていた。
先生が船長で一緒に働く仲間たちが船員。
船長のために、メンバーは、突き進む。
初めて必要とされた気がした。
『私の居場所』で『私の仲間』
─────私、船長について行くよ!
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