1-1 足音は彷徨す

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 部屋にはもう一人、棚の前に立つ少年がいた。ビンを開けて、ケセランパサランの様子を見ていた中学生ぐらいの彼は返事をする。 「あったと思うけど」  ハルと呼ばれた彼、(ひいらぎ)晴斗(はると)はビンを置いて振り向き、棚の足元でしゃがんだ。一番下の引き出しを開けてごちゃついた中身を探る彼を、死神が息を呑んで見つめる。 「これ」やがて彼は、一つの紙袋を引っぱり出した。カウンターに置くと、袋から中身を取り出す。Nの形に曲がった金属の棒の先に、鎌の刃部分がくっついている品。刃はピカピカと銀色に光る。 「こんなもんあったか」 「半年前ぐらいに、屋鳴りが持ってきたやつ。引っ越し先に放置されてて縁起が悪いって」 「あー……そういえばそんな気もするなあ」  呆れた目をする晴斗と、曖昧に頷く彰。その二人を固唾を飲んで見守る死神が口を挟む。「これ、鎌なんです?」 「そうだよ。軽量型の最新式だ」彰は立ち上がると、N字の棒を開くように曲げる。カチリと音がすると共にそれはV字型になり、更に曲げると真っ直ぐ一文字に伸びた。刃部分を持ち上げると、立派な鎌に変身する。 「おお、すごい!」 「ここのボタンを押しながら畳むと……ほら、この通り」ぱたぱたと再び鎌を縮める。二メートル弱から六十センチほどの長さに戻し、死神に差し出した。「場所も取らないし、犬神の骨製だから丈夫なうえ軽い」 「本当だ、軽い!」骨と皮だけの手で鎌を握った死神が、感動の声をあげた。「いやあ、我々、筋肉がないから。すぐ疲れるんですよね」 「だろ。うちにはこれ以外に在庫はない……よな」  視線を向けられた晴斗が頷いた。 「というわけで、今売れるのはこれだけだ。これでよければあんたに……」  どたどたどた。突然、天井で足音が響いた。誰かが走り回る足音。 「おーい、うるさいぞ!」  彰は上に声を張り上げる。すると足音はぴたりと止む。気を取り直して、と彰は死神に顔を戻した。 「あんたに売るよ。どうする」 「そりゃあもちろん、買いますよ。ああ、よかった」  嬉しそうな死神はローブの袂に手を入れ、ごそごそと探る。異形が訪れるこの店、「なばり屋」において、金銭ではなく物々交換で取引が行われるのはいつものことだ。
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