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「お次でお待ちのお客様どうぞー!」
家の最寄りのコンビニレジに並んでいる。
腕に抱えているのは、おにぎりと春雨スープとヨーグルト。ここまでの三つは予定通り。あと一つは、給料日後のちょっとした心の余裕と、甘美な誘惑に負けて手にしたシュークリーム。
もうすぐレジも私の番だから良いけれど、おまけのシュークリームを足したせいで、とても持ちにくい。これなら最初から、今日はデザート買うぞ!と決めてカゴを使った方が良かったかもしれない。
列がまた一つ前に進む。
「あ、やばい」
と思った次の瞬間、ガサッと床に落ちた私の今夜のご褒美さま。まぁ、潰れてる訳じゃないしいっか……と、しゃがんで拾おうとした。私の手より先に、サッとシュークリームが誰かの手で拾われた。顔を上げると、毎日のように寄るこのコンビニで見慣れない店員さんが、優しく微笑んだ。
「新しいのと替えてきますね」
「え、潰れてないから大丈夫……です」
私の返答が終わらないうちに、店員さんは行ってしまった。よりによって、カッコイイ店員さんにドジしたところを救ってもらった。嬉しいような、恥ずかしいような……。
「お次でお待ちのお客様どうぞー!」
私の番が来てしまった。とりあえず先に、レジに進む。一つ目のおにぎりのバーコードがピッと読み込まれる頃には、さっきの店員さんがシュークリームを横からニコッと置いてくれた。私は支払いの最中だったので、会釈しかできなかった。
お店の外に出ると、夕陽がほんのり空と私をピンク色に染めていた。
***
「なぁ、おつりで好きなの買ってきていいからさ!パパのビール、コンビニで追加買ってきてくれよう~」
「えー?私夕方も寄ってきたのに」
「お、ね、が、い♡」
「わかったから、それやめて酔っ払い」
渋々家を出て、あのコンビニへと歩く。今までだったらサンダルで行くけれど、スニーカーを履いた。期待してるわけじゃない。この時間なら、もう深夜帯のシフトの人しかいないはず。
自動ドアを過ぎてみたけど、レジには人の姿がない。なんだかほっとして、パンの棚を通り過ぎて、方向転換した私の心臓が止まるかと思った。かがんで商品棚の整理をしていた店員さんが、顔を上げ私に挨拶する。
「あれ?いらっしゃいませ」
私は思わず、気になっていたことを尋ねる。
「私が落としたシュークリームって……?」
「あ、僕が買って休憩中に食べちゃった♪」
彼はいたずらっぽく笑うと、レジに他のお客様が来て行ってしまった。
私もレジに向かう。
パパのビールと、プリンを二つ手に持って。
「お次でお待ちのお客様、どうぞ」
彼に呼ばれて、一歩前へと踏み出す。支払いを済ませた私は、プリンを一つ差し出す。
「バイト終わったら、食べてください」
この瞬間だけは、コンビニが揚げ物の匂いではなく、甘い香りに包まれた気がした。
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