夕霧花魁と、簪

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 雪がちらつく季節、森深くで1人の花魁が死んでいた。  死因は凍死、とされているがそれが確かかは分かっていない。  謎多き事件として新聞でも取り上げられ、秋葉と警部はその事件について調査することになった。 ー花街  秋葉と警部は数日後、資料抱え花街に調査しに来た。 「ありゃ、警察じゃないかい? ほら、お客さんや」 「本当だ。あれじゃないか? 最近起こった事件の……」  2人の存在に花街の人々は注目した。警部はこれをチャンスとし、聞き込み調査を始めた。 「なんだい、なんだい? 朝から騒がしいねえ」  緑の着物に白い打ちかけを羽織った女性が登場すると、そこらの空気を一気に変えた。  鋭い瞳に、すらっとしたスタイルに2人は有名な遊女だと確信した。  秋葉は一瞬、花弁が女性の周りに舞ったように見えた。 「すまないが、君は誰かね?」 「あたしゃ、朝吹屋の紅だよ。夕霧のことかい?」 「紅⁉ あの朝吹屋の紅花魁かい?」 「ええ。夕霧でしょう? 同期ですし、店に案内しましょか」 「ありがとう! 助かるよ」 「いいえ。これもあたしゃの仕事ですもの。さ、着いてきてくださいな」  3人は紅花魁の後に続き、歩き始めた。  紅花魁は歩きながら、夕霧について語り始めた。 「夕霧はね、10歳の時に花街に来たんだよ。禿として花魁に付き、そっから遊女、花魁となったのさ」  私も同じ道だよ、と紅花魁は付け加えた。 「着いたよ。ここが〝朝吹屋〟」  看板に『夕霧花魁』と大きく書かれており、店が推していることが一目で分かった。 「紅花魁‼ どなんしたんですか?」 「紅露や、女将さんを呼んでくれるかい?」 「はいよ!」 「あの子は……禿ですか?」 「ええ」  奥から女将と、隣には優し気な瞳をした遊女が来た。その遊女を見るなり、紅は冷たい口調で言った。 「おやまあ、秋風。随分と女将さんのお気に入りだねえ。あたしゃと大違い」 「紅花魁……‼」 「よしておくれ、店前で。警部さん、夕霧ですよね?」 「はい。何か知ってることは?」 「知ってることって言っても……。でもね、あの子は苦労したよ。負けん気が強くて、でも成長するとどんどん綺麗になってって。花魁になって禿の面倒も見てあげて、良い()に育ったのに……」 「夕霧花魁は、(かんざし)が好きだったんです。花の簪をよく使っていて、部屋にもいっぱい置いてあります」 「それがどうしたのかね?」 「簪をくれた華族に……恋をしていたんです。その人がつい最近、流行り病で亡くなってしまって。後を……追ったんじゃないか……って」  涙ぐみながら遊女は言った。 「ふむ。ありがとうございます、ご協力」 「ありがとうございます」  2人は頭を下げ、花街を後にしようとしていた。  最後まで紅は見送ってくれた。  気づけば夕方になっていて、騒がしくなり始めていた。 「警部さん達や、あたしゃね秋風が嫌いなんだよ。あの媚びを売ってるようで、見ていて不快だ」 「そんなの見てれば、分かる。くれぐれ喧嘩するんじゃないぞ」 「ありがとう。でも、週末には出世するのだから」 「出世するんですか?」 「ええ。華族の方が結婚したいと、おっしゃってくれまして」 「おめでとうございます」 「本当だったら、あの子もそうだったんですけどね。だから、警部さん達に協力したんですよ。もし、誰かに殺されていたらあの子の無念を晴らすために」 「ーー見かけによらず、優しいな」 「紅花魁~‼」 「そろそろ支度しないと~‼」  遠くから禿が走ってくる足音がする。これを機に、2人は帰ることにした。 「では、くれぐれも気を付けるのだぞ。お前もターゲットになりかねん」 「ええ、そちらもお気をつけて」
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