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孝也(たかや)は都内に住むサラリーマン。都内の私立大学を卒業後に就職し、優しい妻と3人の子供に恵まれ、幸せな家庭を築いている。
今日はクリスマス・イブだ。多くの子供たちはクリスマスプレゼントを楽しみにしている。孝也は3人の子供のためにプレゼントを買ってきた。彼らはとても喜んでいるようだ。ありがとうと言い、はしゃいでいる。
そんな中、孝也はキツネのぬいぐるみを持って空を見上げている。今日は雪が降っている。今シーズン初の雪だ。外の子供達は滅多に降らない雪にはしゃいでいる。雪だるまを作る子供もいれば、雪合戦をする子供もいる。
「お父さん、このキツネのぬいぐるみ、かわいいね」
孝也は振り向いた。そこには長男の修斗(しゅうと)がいる。修斗は今年のクリスマスプレゼントでプラレールをもらって喜んでいた。以前から欲しかったおもちゃだ。やっと手に入れる事ができた。修斗は早速取り出し、遊んでいた。
「そっか、おじいちゃんからもらったんだけどな」
「へぇ」
修斗はひいおじいちゃん、つまり孝也の祖父の佐吉(さきち)に会った事がない。だが、帰省で長野の祖父母の家にやって来た時に写真で見た事がある。孝也はおじいちゃんが大好きな大のおじいちゃんっ子だ。
孝也は考え事をしている。どうしてだろう。このキツネのぬいぐるみに何かあるんだろうか? 修斗は首をかしげた。
「どうしたの? 泣いてるよ」
孝也はそのぬいぐるみにどんな思い出があるのか語り始めた。
孝也は長野の山間で生まれた。家はあまり豊かではなかったものの、温もりのある家庭だ。成績の良かった孝也は中学校を卒業後、東京の高校に進学しようと受験勉強に励んでいた。
佐吉は少し浮かれない表情だ。体調の事もあるのだろう。がんに侵されて余命がもう幾ばくも無い状態らしい。恐らく今年のクリスマス・イブが最後のクリスマス・イブになるだろう。孝也が東京に旅立つまでは生きたい。だがその願いは叶いそうにない。だけど奇跡を信じてる。
もうすぐクリスマス・イブだ。孝也は一体何が欲しいんだろう。佐吉はそれを聞いて、買わなければならない。佐吉はおもちゃ屋の広告を孝也に見せていた。孝也も佐吉もその広告を興味津々に見ている。
「何が欲しい?」
「このキツネのぬいぐるみが欲しい」
孝也は先日、おもちゃ屋で見つけたキツネのぬいぐるみが気に入ったようで、以前から欲しいと思っていた。受験で忙しいけど、今年のクリスマスプレゼントを機にもっと頑張ろう。
「そっか、絶対買ってやる!」
「ありがとう」
孝也は佐吉に抱きついた。とても嬉しい。生きていてよかった。これで心置きなく天国に行ける。
そこに、父がやって来た。父は笑みを浮かべながら孝也と佐吉を見ている。
「もうこれが最後のクリスマス・イブになるだろうな」
「そうだのぉ」
佐吉は寂しそうだ。毎年楽しみにしていたのに。がんにならなければ来年も楽しめたかもしれないのに。後悔してももう遅い。がんは確実に佐吉の体をむしばんでいく。
「孝也の卒業式、見たいな。そして入学式も見たいな」
「見たいよ」
佐吉はどうしても見たくてしょうがない。そして東京へと旅立つのを見たい。だけどあとどれぐらい生きられるだろう。
「もっと生きる事ができれば見れるかもしれないのに」
佐吉は絶望していた。奇跡は起きないだろう。残念だけど、卒業式を見る事すらできないだろう。
「まだわからないじゃないの。奇跡を信じましょ?」
「そ、そうだな」
佐吉は少し顔を上げた。奇跡を信じよう。進行が奇跡的に止まり、腫瘍がなくなるかもしれない。
そして、クリスマス・イブを迎えた。この日は多くの子供たちがプレゼントをもらい、喜んでいる。中には成績が悪くてもらえない人もいて、彼らは悲しんでいた。
佐吉は近くのおもちゃ屋でキツネのぬいぐるみを買ってきた。孝也は欲しいと言っていたキツネのぬいぐるみ。きっと喜んでくれるだろう。
「ただいまー」
佐吉がおもちゃ屋から帰ってきた。佐吉は少し雪をかぶっている。そして、おもちゃ屋の袋を持っている。
「おかえりー」
2階で勉強をしていた孝也は玄関にやって来た。おもちゃ屋の袋を持っている。もしかして、キツネのぬいぐるみを買ってきたんだろうか?
「孝也、クリスマスプレゼントだ」
「わーい、ありがとう。中身は何だろう」
佐吉は孝也に袋を渡した。すぐに孝也は中身を見た。中には欲しかったキツネのぬいぐるみがある。受験勉強で忙しいぼくのために買ってきてくれた。佐吉のためにも頑張らないと。
「キツネのぬいぐるみだ! かわいいー!」
「かわいいだろ! 欲しい欲しいって言ってたよな」
佐吉は笑みを浮かべた。孝也が喜んでくれればそれでいい。
「うん! ありがとう、おじいちゃん!」
「よかったな、孝也」
父は孝也の頭を撫でた。毎日受験勉強を頑張っている孝也へのごほうびだ。きっと、もっと頑張ってくれるはずだ。
「さて、今年は受験だ。勉強を頑張って、東京の高校に進学するんだぞ。お父さんも応援してるからな!」
「わかったよ! さぁ勉強だ勉強だ」
孝也は再び2階に戻っていった。再び受験勉強をするようだ。合格したらともに喜びを分かち合おう。
「頑張ってるね」
「それがおじいちゃんへの最後の孝行だろうな」
佐吉と父は階段を見て、考えていた。きっと孝也はえらい子になるぞ。東京に行って、大学に進んで、一流企業に就職するだろう。そして、結婚して温かい家庭を持つだろうな。
「孝也の未来に期待しましょ?」
「うん」
こうしてクリスマス・イブの夜は更けていった。今日も孝也は受験勉強を頑張っている。だから、自分たちも毎日頑張ろう。
翌日、今日はクリスマスだ。昨日に引き続き、雪が降っている。すでに冬休みだ。孝也は夜遅くまで受験勉強をしていて、少し眠そうだ。だが、それも受験のため。乗り越えなければ。
孝也は1階のダイニングにやって来た。朝食の用意はもうできている。両親はすでに椅子に座って朝食を食べるのを待っている。だが、1階に寝室のある佐吉はまだ来ない。もう起きているはずなのに。
「おじいさん、まだ来ないね」
「そうだな・・・」
突然、父は不安になってきた。ひょっとして、佐吉に何かあったのでは?
「何があったのか見てきてよ」
「うん」
父は佐吉の寝室に向かった。母は父の後姿を見て、不安になった。ひょっとして、死んだんじゃないだろうか?
父は佐吉の寝室にやって来た。ベッドでは佐吉が寝ている。いつもの寝姿だ。だが、扉を開けても近づいても全く反応しない。
「父さん、朝ですよ!」
父は叫んだが、佐吉は反応しない。どうしたんだろう。耳が遠いからもっと大きく言わなければならないんだろうか?
「父さん、起きて!」
父はゆすった。だが、佐吉は起きない。どうしたんだろう。そして、父は気づいた。体が冷たい。まさか、死んだ?
「つ、冷たい・・・」
父はその時知った。佐吉はクリスマスの朝に死んだ。孝也の卒業式どころか、新しい年を迎える事なく。
父はダイニングに戻ってきた。父は肩を落としている。母はその様子を見て、驚いた。佐吉に何かあったんだろうか?
「どうしたの?」
「冷たくなってる・・・」
父は泣きそうだ。死んだと言いたくないのに、言わなければならない。
「まさか・・・」
冷たくなったと聞いて、母もその意味がわかった。
「どうしたの?」
その意味が分からない孝也は首をかしげた。2人とも悲しそうな表情だ。まさか、佐吉が死んだんだろうか?
「おじいちゃんが死んだ」
「そんな・・・」
孝也は立ち上がり、佐吉の寝室に向かった。信じたくない。昨日、プレゼントをくれたのに。その次の日に死ぬなんて。
孝也は寝室にやって来た。そこには佐吉が寝ている。いつもの寝顔だ。
「おじいちゃん、おじいちゃん、起きて!」
孝也は佐吉をゆすった。だが、起きない。そして、冷たい。やはり死んでるんだ。
「もう起きないんだよ」
孝也は振り向いた。そこには両親がいる。両親は泣いている。よほど悲しいと思われる。
「昨日はあんなに元気だったのに。キツネのぬいぐるみを買ってくれたのに」
程なくして孝也も泣きだした。キツネのぬいぐるみが最後のプレゼントになるなんて。信じられない。もっと生きてほしかった。卒業式を見てほしかった。
「仕方ないんだよ。その時が来たんだよ」
「早すぎるよ! 卒業式が見たいって言ってたじゃん!」
孝也は泣き崩れた。両親は孝也の肩を叩いた。苦しいのはわかるけど、受験を頑張ろう。それが佐吉への最後の孝行だ。きっと天国から見守ってくれるはずさ。
「わかるけど乗り越えよう。そして、おじいちゃんが空から見てるって思って、頑張ろう」
「うん・・・」
3人は泣きながらダイニングに戻っていった。朝食を食べたら葬儀屋に知らせないと。そして、親戚に佐吉が死んだ事を知らせないと。
修斗はその話を真剣に聞いていた。修斗はいつの間にか泣いていた。
「そんな思い出があったの・・・」
「そうなんだよ」
孝也は再び空を見上げた。星は雲がかかっていて見えないけれど、 温かい家庭を築いている孝也を温かく見守っているはずだ。
「おじいちゃん、空から見てるからな?」
「きっと見てるよ!」
修斗も空を見上げた。修斗にも佐吉の姿は見えない。だけど、きっといるんだ。そして、僕らを見守っているんだ。
と、修斗は家の前の道でキツネを見つけた。こんな都会にいるんだろうか? それは佐吉が見せた幻だろうか? それとも、キツネに生まれ変わった佐吉が見ているんだろうか?
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