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第9話 ボク⑨
「それでね、それでね、馬ってこーんなに大きくってね」
「そうか、そうか、そんなに大きかったか」
「途中に大きな池があったんだ。こんなにこんなに。湖って言うんだって」
「そうか、そうか」
ボクはお屋敷に帰った後、食事の時間になると毎日のように今回の小さな旅で経験した、とりとめもない話を伯父にした。忙しくて、一緒の食事の時間もなかなか取れないだろうに、二人の自分の息子からも沢山聞いているだろうに、伯父はボクに調子を合わせて話を聞いてくれた。
「あそこの図書室って、大人が読むような難しい本ばかりだよね」
2人の従兄たちも自分の体験を話しながら、ボクの話を面白そうに聞いてくれていた。
まだインターナートに行ったことのない7歳の従妹は目を輝かせながら皆の話を一生懸命に聞いている。
「アタシもはやくかよってりっぱなおよめさんになるのー」
「ははは、それは良いね」
とボクが言い終わるかどうかくらいのタイミングで、
「まだ早い、まだ早い、まだ早いって」
と伯父がつぶやいたのをボクは聞き逃さなかった。
*
「えー、それでは本日は鎧などの防具の移り変わりについて学びたいと思います」
月日はあっという間に流れ、ボクは14歳になりインターナートで本格的に戦闘に関する授業も受けるようになった。
10年ほど前、隣国の神聖リヒトと小規模な戦闘があったのを最後に、最近は国同士の戦争はおろか小競り合いすら無いのだけど、色々な国がある以上、いつ起こっても対応できるように準備を怠らないようにしなければならない、とのことだった。
「皆さんは防具というと、お屋敷に飾ってある大きな兜に、体をすっぽりと覆う鉄で出来た立派なものを思い浮かべるかもしれませんが、あれは既に時代遅れです」
防具は50年ほど前までは、武器から身を守るために全身を可能な限り隙間なく鉄の板で覆うものが主流だったのだけど、約30年前に導入されたとある武器が主流になりつつあることによって、10年ほど前の戦闘では50年前では想像も出来ないくらい、簡素な鎧になったらしい。
「剣、槍、メイスなどが武器の主役だった時代には、立派な甲冑が、それこそ攻撃されたことに気が付かないことがあるくらい有効でした。ところが、現在の防具は、鉄砲の出現によって、鉄砲を主軸にした戦法の出現によって、大きく様変わりしました。鉄砲は甲冑を貫けるとても強力な武器だからです」
鉄砲か。そう言えばあの執事も今回のお供で腰に付けていたな。肘から手首くらいの長さの射撃武器だったか。
「これが現在の我が国で、最も広く使用されている鉄砲です」
先生が見せてくれた鉄砲は長さが1.5メートルくらいありそうだ。だとするとあの短いのは何だったのだろう? と思っていたら、
「次にこれが護身用に作られた鉄砲です。これは威力も命中精度も低いので戦場では使われませんが、王国軍では指揮官用に予備で配布されていますね」
そう言って見せてくれたのは、執事が腰に付けていたのと同じような短い鉄砲だった。
「はい、先生。こっちの長い鉄砲に付いている縄のようなものが、短い鉄砲にはありませんが、なぜでしょうか?」
目聡い生徒の一人が質問した。
本当だ、長さ以外にも違うところがあるな。
「それはですね、火薬に火をつける仕組みが違うからなんです。長い鉄砲は前もってこの縄に火をつけておいて火薬に着火します。短い鉄砲は火打石に衝撃を加えて火花で火薬に着火します」
「長い鉄砲も、縄ではなくて火打石にすれば良いのではないですか?」
「火打石は確かに便利なんですが、何回か使用すると石が欠けたり、位置がずれたりするので、石の交換や調整をしなければならないのです。ところが、この作業は手間がかかる上に難しいんですよね。したがって、戦場ではとても使えませんが、咄嗟に撃たなくてはならないときにはとても有用です。
一方で縄も調整が必要なことはありますが、火打ち式のものに比べれば簡単に調整できるので、戦場で使われる長い鉄砲は、縄の方が主流です。ただ、先ほども言った通り、前もって縄に火をつけておかなければいけませんので、護身用には向かないんです。
便利な仕組みでも、目的によっては別の方法が良いという一例ですね」
あ、そうか。今の考え方はよく覚えておかないと。
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