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第6話 ボク⑥
「これから行くインターナートでは10歳から14歳まで学びますが、ずっと生活するのではなくて10歳のときは3ヶ月、坊ちゃんはまだ10歳ですから3ヶ月ですね。
それから11歳から14歳の間は毎年6ヶ月と少し長くなります。
その間は他の子供たちと一緒に生活しながら授業を受けます。
本当は5年間続けてやりたかったんですけど、下級貴族の働き手をできるだけ奪わないようにするためにこうしたみたいですよ。
ああ、他の子供たちも貴族ですから、くれぐれも仲良くして下さいね」
お供の執事がそう説明してくれた。
先生とお別れしてから、あっという間にインターナートに入る日が来た。
少し涙ぐんでいる伯父に見送られながら、ボクたちはお昼ごろに馬車で領都のお屋敷を出発し、王都郊外にある施設に向かっている。
少し余裕のある4人掛けの車内にはボクと、斜向かいに先ほどの若い男の執事が座っていた。
他には護衛の兵士が2名と、2頭立ての馬車を操る御者が1名で、全部で5名の旅だった。
兵士1名は御者の隣、もう1名は馬車の後ろで周囲を警戒している。
執事は武芸の心得があるらしく、ソードベルトを装着して、左の腰にレイピア、右の腹部にはマインゴーシュが固定されていて、ジャケットの下には、肩から手首辺りまでのスプリントアーマーを取り付けているようだった。さすがに馬車の中ではレイピアは邪魔になるのでそばに立てかけてあるが。
護衛の2人の兵士は半球状の鼻当て付き鉄兜、目、鼻、口だけ開いている革の頭巾、バフコート、キュイラス、大きくオダ家の紋章が書かれたリベリー、肘辺りまである革の籠手、太ももの中ほどまである革のブーツ、片手剣と言った出で立ちで、他にもメイス、スモールソード、三角盾、弓矢などを、御者が座る椅子の下にある荷物入れにしまっていた。
若い執事の話では、途中の町や村で休憩をしながら馬車で3日かけて目的地まで移動するとのことで、物心ついたときからずっとお屋敷に居たボクにとっては、馬車の窓から見える全てが新鮮だった。
だから、初めてお屋敷から離れる不安や寂しさは、もうどこかへ吹き飛んでしまった。
だけど、どこかへ吹き飛んでしまった不安や寂しさの代わりに、移動2日目には別のものがやってきた。
「痛い……」
思わずつぶやいてしまったが、お尻が痛いのである。
すかさず若い執事が、
「これは大変失礼しました。ささ、これをお使いください」
と、座っている椅子をぱかっと開けて、綿の詰まったクッションを取り出して渡してくれた。
お陰でお尻が楽になったが、振動には慣れそうにない。
「振動がつらいとは思いますが、私の10代の頃と比べればこれでも随分良くなったのですよ。御館様が宰相に任命されてからすぐ、往来の多い街道を整備するよう諸侯会議を経て陛下に奏上なさいまして、ちょうど今年で大きな町を結ぶ街道の整備が終わったところなのです。次は比較的大きな農村や漁村につながる街道を整備するそうですよ」
「へぇー、さすが伯父上ですね!」
「ですね!」
「でも、どうして街道を整備しているんですか?」
「さすが坊ちゃん、良い質問ですね」
えっへん。
「街道の整備で、真っ先に思い浮かぶのは移動にかかる時間が短くなることです。特に馬車ですね。以前のようなでこぼこが多い道ですと、馬車があまりスピードを出せませんでしたし、車輪が壊れやすくなって、何回も修理が必要で、余計な時間がかかってしまいますから」
「移動時間を短くするためだけに街道を整備したんですか?」
「極端な話としては坊ちゃんの言う通りです」
「それだけのために、すぐに街道を整備する必要はあるんですか? 後回しでも良いと思います」
「さすが坊ちゃん、鋭いですね」
えっへんえっへん。
「このお話は……、そうですね、坊ちゃんが14歳になったらしましょう」
むむー、と膨れてみたけれど、若い執事は、理解するのに経験が必要なことが多いのです、と言って教えてくれなかった。
そんな会話をしている内に、2日目の宿泊する町に到着し、宿で空腹とお尻を癒すのだった。
馬車の話を聞いたので御者を見ていたら、あちこちじっくり見たり触ったりしている。頑丈に見える馬車でも、お手入れをしないと壊れやすくなるものなんだろう。
また、護衛の兵士は休憩の度に、目線と気分を入れ替えるためのものだろうか、前後を交代していた。
宿に泊まるときも、ボクの部屋の前を執事も含めた3人で、交代で警備してくれていたようだ。とても心強いのだけど、いつ寝ているんだろうね?
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