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ハッピーエンド
ワンズー大臣は、捕まった後で全ての罪状を調べ上げられた。
彼は火事に紛れて蔵書庫からロウ・リンの呪いに関する記録を持ち出した。
そしてその記録を元に、皇族を陥れ、更にはその後継の可能性のある七王家の王子達をも手を汚さずに滅ぼすことを目論み、呪いを復活させたのだ。
ロウ・リン公主の魂は、恨みの念が井戸に、グンドへの愛が肉体に残って引き裂かれ、その愛がグンドと結びついていた間は呪いが抑えられていた。
城の井戸に残っていた怨念もグンドが連れ去って行ったから、もう二度と、彼女の呪いは起こらない。
けれど――呪いが解けて全てが変わった後も、結局インジェンは、自分が男であることを世間には公表しなかった。
そして、トゥーランドットとして、カラフと形だけの結婚をした。
病んだ老皇帝はすぐにその座をカラフに譲り、皇帝の位は、ダッタン王家へと引き継がれ、その未来の子孫へと受け継がれることになったのだ。
カラフは元の祖国であるダッタンをロサから取り戻すため、軍隊を改革し、兵を鍛えている。
並み居る政敵も持ち前の主人公力でなぎ倒し、若き皇帝として活躍中だ。
インジェンが皇帝にならなかったのは残念だけど、この物語があるべき所におさまった、とも思える。
そうそう、ピンポンパンは老将軍にたくさんご褒美を貰い、宦官を引退して、それぞれの故郷に錦を飾ったらしい。
そして、俺とインジェンはというと……都の近郊の村に畑と屋敷を手に入れて、一緒にのんびりと暮らしている。
皇帝になったらば、後宮にたくさんの女の人を集めて、世継ぎを作らなきゃいけないから……インジェンが選んだことだ。
トゥーランドットは元々引きこもりのお姫様だから、滅多に姿を見せなくても、誰も気にすることはないらしい。
のんびりした村に暮らしていると、インジェンが時々「もうこんなど田舎は嫌だ、都に帰る」なんてワガママ言ったりするけど、なんだかんだで毎日、楽しそうだ。
元皇子様の今のお仕事は、村の子供達に剣や、学問を教える先生。
教養があるから、頼まれて書画を書いたりすることなんかもある。
俺はもっぱら、馬の世話と、畑仕事と野菜売り。
それからインジェンの世話と、時々俺も子供達に「ヤキュウ」を教えたりする。
で結局、一日中、働いてるか人の面倒を見てるっていう生活になって、奴隷の時と働き詰めの日常は変わってない。
爺さんが若くてハンサムな美人になったくらい?
城の生活に馴染めない爺さんも時々こっちに泊まりに来るから、その世話もあったりしてさ。
まあ、俺はなんだかんだ言って、人の世話をしてるのがけっこう幸せな方みたいだ。
あとは、そうだな、色々楽しいことができるようになった。
春は馬で遠乗り。
夏は川でインジェンに泳ぎを教えて、ついでに爺さんの為に魚をとる。
秋は都の中秋節のお祭りに出掛け、冬は家の中でイチャイチャしながら本を読んだり、年越しの準備をしたり。
そうそう、大事なことを一つ忘れてた。
……性生活の充実度合いが半端ない。
恥ずかしいんだけど、実は……最初から良過ぎたせいで、すっかり後ろの才能に目覚めさせられてしまったんだよな。
本当にこればっかりはインジェンに責任をとってもらわないと、どうにもならない。
「ただいまー!」
――今日も車を引いて、都まで野菜を売りに行った、その帰り。
小さいけど立派な門構えの、こじんまりした我が家に入り、井戸の水で手足を洗って着替える。
その後は、花々の咲き乱れる中庭を通って、寝室に直行。
俺の帰りを待てずに眠りこけてる綺麗なお姫様に、お目覚めのキスをする為だ。
お姫様は、自分で片付けるっていう習慣がまだ、というか多分一生身につかないものだから、俺が帰るといつもあちこち色んなものが散らかっている。
寝室も言うに及ばず。
読みかけの本やら書きつけやらが、あっちこっちに大量に放置されていて、足の踏み場にも困る程になっていた。
糸綴じの本を一つ一つ拾い集めながら、タイトルを確かめる。
教科書みたいな真面目な本もあれば、城の蔵書庫には絶対なかったろうなと思うような、ちょっとエッチな娯楽本もあって、微笑ましい。
ずっと外に出られなかった彼にとってはきっと、何もかもが珍しいに違いない。
俺は本をとりあえず隅に積んでおき、奥のカーテンで仕切られた寝台に向かった。
俺のお姫様は、読みかけの本を逞しい胸の上に置いたまま、布団もかけずに仰向けに眠っている。
この辺は夏でもけっこう冷えるのに、全く呑気なお姫様だ。
「インジェン。俺のお姫様、なぁ、起きて……」
優しく囁きながら、傷一つない白い額に、長いまつ毛に、最近ちょっとだけ髭が生える頬や顎に、変わらない花びらのような唇に口付けを落とす。
「うぅ……何だ……? 帰ったのか……」
「何だじゃないだろ。そういう時は、『おかえり』って言うんだよ」
「断る」
ツーンとして、インジェンが目蓋を閉じてしまった。
この野郎、俺が一日中いなかったものだから、すっかり拗ねてしまったな!
「何でだよ〜。お帰りって言ってくれよ、ジェンジェン!」
上から覆い被さって、すりすりほっぺを擦り合わせる。
このぞりっとするヒゲの感触にもすっかり慣れた。
立派な雄になった俺の雛も、可愛くてカッコいいから問題ない。
眉毛は濃いし顔もちょっとごついし、前は細かった肩幅も腰回りも、俺よりすっかりでかくなっちゃったけど……これはこれで、堪らなくときめく。
「おかしなあだ名で呼ぶな! 無礼だぞ」
「嫌なら、俺のことも変なあだ名で呼んでいいよ? リュウリュウでどう?」
「うるさい、うるさい! 私は寝る!」
「だーめ、寝るとか許さない。なぁ、今日も俺のことエッチな身体にした責任とってくれよ」
「知るか! 大体、お前は何なんだ。あんな老獪な口淫をしておきながら、本当はあれが初めてだったなどと……この詐欺師め」
「だって、本当に本当なんだもん。なぁ、一日中働いてきたご褒美ちょうだい……?」
猫撫で声で甘えつつ、服の上から優しく股間を触る。
いやらしく揉むと、若さなのか、すぐにギンギンに勃って懐いてくるのが良いところだ。
「あぁ……っ、なぁ、これ……欲しい……」
「勝手に触るな! この無礼者!」
下半身は大歓迎だけど、上半身は意地があるらしい。
「夫夫に無礼もなにもあるか。ほれほれ、お宝を出せ」
お姫様を手ごめにする悪代官の気持ちになって、一気にズボンを脱がせる。
ぶるん!と鎌首をもたげたインジェンの若く太い雄に、俺は甘いため息をついた。
はぁ、可愛い。癒される……。
いや、男のちんちんに癒されるってなんやねん、て感じだけど、インジェンは本当に可愛いから、ちんちん単体でも愛おしいと言うか。
先端にキスしようとしたら、ガサガサっと寝台の上で逃げられた。
ちょっと。
人が奉仕しようとしてるのに、こんなに拒絶するとか、ダメだろ……!
俺はなるべくやらしい雰囲気でゆっくり服を脱ぎながら、半ベソをかいて訴えた。
「インジェン様、お情けを。リュウに夜伽をさせて下さいませ……おっきい立派なおちんちんを、舐めさせて下さい……どうかお慈悲を……」
「何を言っている、この変態の淫乱妖魔め……!」
ああっ、その罵り方、堪らない。
冷たい切長の目で見られながら罵られると、俺のM気質のスイッチが完全に入ってしまう。
下腹がゾクゾクして、浅ましく勃起してしまう……。
元々Mが入ってたけど、あの初めてのエッチで完全にドMに目覚めてしまって、すっかりダメ人間になってしまったんだよな。
内衣一枚かつちんちん丸出しのスタイルで、両脚をM字に開いて、言葉で虐められただけで濡れ濡れの半勃ちになってるのを見せつける。
「……見て」
ちんぽの先のとろとろを指先で撫でると、いやらしい糸を引いて液体がまとわりつく。
そのヌルヌルを中指にまとわせて、毎晩のようにインジェンの大きいのを受け入れるようになった場所に、ツプッ……と指先を挿入する。
「こんなに、柔らかくなっちゃって……。俺、おちんちん切られてないのに、後ろでしかイけない雌豚になっちゃった……」
ヌッ、ヌッと指を奥深く入れて見せ付けると、インジェンが食い入るようにそこを見つめてきて、身体が羞恥と快感で熱くなった。
更によくそこが見えるように、身体を反転させ、四つん這いになってお尻を向ける。
「ハァッ、もっと見て、あぁ……っ、気持ちぃぃ……、あン……っ」
クールビューティーな美人に、前を自分で擦りながら後ろをいじる、恥ずかしい所を見てもらうの、さいこう……。
なんて、理想のシチュで自慰に耽ってたら、左右のお尻をガバッと掴まれた。
「この私にだらしない尻を向けるとは……リュウ、お前は何という淫らな無礼者だ」
ハァハァ、それっ。
詰られるとどうしようもなく興奮する……!
「ぁあ、申し訳ございません、殿下……っ、わたくしめのはしたない尻をどうか、お許しください……っ」
今は完全な趣味と化した奴隷モードに切り替わり、うっとりと甘い喘ぎを漏らす。
至近距離で見られていてもなお、指を増やしてお尻をいじる手が止まらない。
インジェンも奴隷と王様ごっこに乗ってきて、声に興奮を滲ませながら、俺のお尻を軽く手のひらで叩いた。
「咎められたというのに、まだ物欲しそうに自ら尻穴を拡げるとは……もう三本も飲み込んでいるぞ。お前に恥というものは無いのか?」
「うンっ、申し訳ございません……っ、どんな罰でもお受けいたします……っ」
「成人してから淫らなことを知ると、中毒になるというのは本当だな。……指を抜け。尻肉を拡げて、わたしに中まで見せてみろ……」
甘く低い声で辱められながら、素直に頷く。
顔を背後に向けつつ、自分で尻肉を掴み、ひくん、ひくんと寂しそうに疼いて収縮するそこを……中まで、ご主人様に見せつける。
「早く、お情けを……リュウのお尻の穴はもう……殿下のちんぽの奴隷です……っ」
インジェンの喉から、ひゅっと息を呑む音が聞こえた。
興奮で乾いた美しい唇を、赤い舌が一巡りして湿らせたかと思うと――インジェンが自分のペニスの矛先を俺の肉壺にあてがい、後ろから一気に押し貫く。
「このっ、恥知らずの妖魔め……!」
「ひ、ぃ……っ! 大きすぎるぅ……っ」
罵りながら入れてもらえるのが嬉し過ぎて、多分俺いま、完全に目の中ハートだ。
「……っ、全くお前は、どこまで淫らになれば気が済むのだ!?」
「申し訳ありません……、アぁっ、これ、好きぃ……、殿下、おく、はやく奥まできてくださ……っ」
我慢できずにお尻を持ち上げてインジェンの腰にユラユラと擦り付け、盛りのついた雌犬のように懇願する。
インジェンは若さゆえの性急な腰使いで俺を追い詰めながら、俺の乳首をつねり上げた。
「昼間は、こんな膨れた乳首のまま、街頭に立っていたのかっ。まさか、野菜以外のものを未だに売ってはおるまいな……!?」
「ぁア……っ、インジェン様ぁ……、わたくしめが売ってるのは、太くて硬いお野菜だけです……っ、あはぁっ、おっぱいきもちぃぃ、もっと、お情けを……お尻と一緒に虐めてくださ……い……っ」
「リュウ……っ! お前は淫ら過ぎる! お前の上の口も下の口も、もう私だけのものだからな……!?」
後ろから抱きしめられながら、唇を求められて、深く口付けをする。
目眩がするほど濃厚な交わりと共に、唾液を飲ませ合い、淫らな舌でお互いを擦って煽りあっているうちに、インジェンが腰を震わせた。
「くっ、出る……っ」
先に達してしまうのがよほど悔しいのか、唇を離して嘆くのが可愛い。
若々しい熱い迸りを身の奥で受け止めながら、俺も淫らな雌の絶頂を迎える。
「……殿下、あァ……イ、く……っ……リュウは……インジェン様を……お慕いしております……っ」
「ああ、私の可愛いリュウ……!」
――健気な奴隷の俺の唇は、再び皇子の熱い口付けで塞がれた。
――それから数刻、奴隷モードを脱ぎ捨てた俺は、寝台の上でインジェンの裸の身体に両手両脚を絡ませて懐いていた。
「はあぁ、気持ちよかったぁ。インジェン、ありがとうなぁ」
懐いてる猫みたいに、裸の胸板にスリスリしている俺に、釈然としないインジェンが溜息をつく。
「……なぜ、お前は寝台の上でだけ奴隷になりたがるんだ? 奴隷が嫌だから私の謎に挑戦したのだろうが」
俺は唇を尖らせて、言い訳をした。
「寝台の上だけ、ってのがいいんだろ。分からないかなぁ、この気持ち……!」
「分かってたまるか!」
ぷいとそっぽを向かれた。
全く、インジェンがツンツンしてるのは、姫君をやめても相変わらずだ。
「なぁ、ジェンジェン」
そんな時は、こっちからも仕返しに、わざと子供みたいなあだ名で呼ぶ。
「だから変な名前で呼ぶなと言ってる!」
「俺の名前だって、好きなあだ名で呼んでいいって言ったじゃん……?」
「……そんなもの、さっぱり思い浮かばん。前々から思っていたが、お前はなぜ、そう化け物のように体力があるのだ」
なーんだ、俺に体力負けしたのを悔しがってるのか。
ふふんと笑って、俺はウインクした。
「そりゃあだって、野球はスタミナが命だから」
「……知らん。私は疲れたから、もう寝る」
「ちぇっ」
布団を被り直しつつ、改めてインジェンに抱きついた。
目を閉じてウトウトと夢の世界に落ちかけていると、隣のインジェンがもぞもぞと俺に擦り寄ってきて、耳元で甘い声が囁く。
「……。決めたぞ。……お前の名は、……『愛』だ……」
愛って。
変なの……。
インジェンがそれでいいんなら、いいけどさ。
抱きしめられる感触に、笑顔になりながら……俺はその平和な一日を終えた。
――そんな訳で……。
奴隷の身分を脱出したかと思いきや、実は未だに、趣味で奴隷をやっている俺だった。
やむを得ずやる奴隷と、楽しんでやる奴隷は、やっぱり違うんだよなぁ〜。
当初の目的の、お城で「玉の輿」は逃したけど。
副題が、異世界スローライフならぬ、異世界スローセックスに切り替わっただけ、って感じ?
あはっ。
そんな、何周生まれ変わってもアニメ化なんかしそうにない俺の異世界転生話の続きは、またいつか。
みんな、こんな俺とインジェンの話を、最後まで聞いてくれて、本当にありがとう。
――めでたし、めでたし……。
(終わり)
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