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「……起きてください、タカシさん。もう朝ですよ。会社に遅れますよ」
翌朝、俺を起こしたのは謎の女性の声だった。
美しく澄んだ水を思わせる透明感と共に、強い存在感も感じられる声質だ。名前は忘れてしまったけれど、一昔前に色々なアニメで主役を張っていた女性声優が、確かこんな声だったはず。
一瞬「俺、テレビつけっぱなしで寝ちゃったっけ……?」と思ったが、そもそも昨日は、深夜アニメなんて全く見ていなかった。
ならばこれは夢に違いない。寝起きのボーッとした頭でそこまで察しながら、声のする方に顔を向けると……。
「おはようございます、タカシさん。ようやく起きてくださったのですね」
壁に掛かった一枚のイラスト。
俺のヒロインのアル子が「よろしく!」と言わんばかりの仕草で、手を差し伸べていた。
「アル子はそんなこと言わない……」
俺の口から出たのはそんなセリフだった。正確には「アル子はそんな声じゃない。声質も口調も違う」と言うべきだったが、ボーッとしていたから仕方ないだろう。
「あら。私、アル子じゃありませんわ」
「じゃあ、誰……?」
「タブラ・マルギナータと申します。早速ですが……」
「いやいや、ちょっと待って!」
この辺りで、ようやく俺もきちんと目が覚めたらしい。現状の異常さを理解して、バタバタと手を振りながら会話を止めた。
「おかしいだろ? 絵と普通に話してるとか、自作のヒロインイラストに否定されるとか……」
口では「おかしい」と言いながらも、同時に「事実は小説より奇なり」という言葉が頭に浮かんでいた。
ヨクカクから送られてきたのは、ヨクカクが秘密裏に開発した魔法の額縁であり、中に入れた絵に命が宿るのではないか。これをネタにして小説を書きなさい、というのがヨクカクの意図ではないか。
そんな想像もしてしまったのだが……。
「あら。タカシさん、大きな勘違いをしていますわ」
タブラ・マルギナータと名乗った女性の声が、一歩引いたような口調に変わる。
「私、つまり喋ってるのは、絵の方じゃありません。その外側の、額縁の方です」
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