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「えっ? 絵じゃないの……?」
「つまらないダジャレは止してください、タカシさん」
タブラ・マルギナータの声は、苦笑しているように聞こえた。
「いや、そんなつもりないんだけど……。それより、もしかしてヨクカクは関係ないのか……?」
「何ですか、ヨクカクって。知りませんよ、私」
きっぱりと「ヨクカクが秘密裏に開発した魔法の額縁」説は否定されてしまう。ならば一番最初に考えた通り、差出人は単なる偽装だったのだろう。
「最初から順を追って説明しますと……。私、魔法の国から参りました」
「やっぱり魔法の額縁だったのか!」
「違います! 元々は私、こんな姿じゃありません!」
タブラ・マルギナータの話によると。
彼女は平和な魔法の国の住人であり、外見的には俺たち人間と同じ姿で暮らしていた。そこに悪い魔法使いが攻め込んできて、特殊な魔法で全ての国民を額縁に変えてしまったという。
「なんで額縁……?」
「知りませんよ、悪い魔法使いの考えることなんて。それより大切なのは……」
魔法の国には昔から「王国に危機が訪れた時、異世界から来た魔法少女によって救われる」という言い伝えがあった。単なる伝説ではなくそれが事実である証拠の一つとして、異界の女性に魔法の力を授けるようなアイテム――外見的には花飾りのついた手鏡――も、王宮の宝物庫に保管されていた。
「それで、魔法少女を探すという重大な使命を帯びて、私がこちらの世界に渡ってきたのです。『一番波長の合う人間にしか私の声は聞こえない』とか『一番波長の合う人間のところに送り届けられる』という魔法も付与されています。昨夜は私が眠っていたので、肝心の声も届きませんでしたが……」
目も口もないタブラ・マルギナータだが、にっこり笑うような言い方になっていた。
「……タカシさん! こうして今、私の声がきちんと聞こえているのですから、あなたこそがその伝説の魔法少女! 私たちの王国を救ってくださる、運命の人なのです! さあ、変身の時です!」
「いや、そんなこと言われても……」
「お宝のアイテムなら、ここにあります。それっ!」
おそらく、これも魔法なのだろう。タブラ・マルギナータが強く念じると、額縁姿の彼女の前に、ボウッとした光が浮かび上がる。みるみるうちに、それは白い手鏡として実体化した。
言われるがまま、その手鏡を手にして……。
「ラミスクニクテ・ラミスクニクテ・ルールルルー!」
これもタブラ・マルギナータに言われた通り、変身呪文を唱えてみた。
しかし、何も起きない。
「変ですね? 私の声がハッキリ聞こえる以上、間違いなくタカシさんこそが、伝説の魔法少女に最も相応しい候補者のはずなのに……。何がいけないのでしょう?」
首を傾げるような口調の彼女に対して、俺は冷静に告げた。
「男だからダメなんじゃね? 魔法少女って言うくらいだから、若い女しか変身できないんじゃね?」
「あっ……」
タブラ・マルギナータは絶句して、まるで普通の額縁みたいに、しばらく黙り込むのだった。
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