囁く額縁

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    「おはようございます、タカシさん。今日は休日ですから、頑張って探しましょうね!」 「ああ、うん。一応は努力するよ」  タブラ・マルギナータと出会って以降、週末と祝日、つまり仕事が休みの日は忙しくなった。  彼女を鞄に入れて、日本全国を旅して回るのだ。俺が魔法少女になれないのであれば、魔法少女の候補者探しを手伝ってほしいと頼まれて、俺が了解したからだ。  俺ほどではないにしても、二番目とか三番目くらいにタブラ・マルギナータと波長の合う人間ならば、魔法少女になれるかもしれない。でもタブラ・マルギナータは額縁なので歩き回れないから、俺が持ち運ぶという次第だった。 「それでね、タカシさん。昨日見たテレビで、魔法少女を題材にしたアニメが放映されていまして……」  電車に乗っている時でも歩いている時でも、タブラ・マルギナータは鞄の中から、色々と話しかけてくる。 「こうして(ささや)き続けていれば、私の声を聞こえる女性が近くにいた場合、ギョッとして反応してくださるでしょう? それで判別できるじゃないですか!」  というのが彼女の理屈だが……。  まず声の大きさからして「(ささや)く」というレベルを超えているし、そもそも探索のため云々というより、タブラ・マルギナータ自身がお喋り好きな女性のようだ。 「ねえ、タカシさん。聞いてます?」 「うん、聞いてるよ」  少し鬱陶しい気もするけれど、額縁にはアル子のイラストを挟んだままだ。アル子は「陽気でよく喋る少女」という設定だったし、アル子が喋っていると思えば我慢も出来る。  ちなみに、いつのまにか声質の違和感もなくなり、最近は自作の小説を書きながら「アル子の声のイメージは、美しく澄んだ声色で、それでいて存在感も強い声質」と思うようになってきた。 「今日も無駄足でしたね、タカシさん……」 「うん、残念だったね」  帰宅後。  旅先で買ってきた温泉まんじゅうを口に運びながら、額縁の言葉に相槌を打つ。  正直なところ、一人旅も悪くないし、相棒が一緒なのはもっと悪くない。お目当ての魔法少女は見つからなくても、ただ出かけるだけで、俺はそれなりに満足していた。  しかしタブラ・マルギナータは違うようで……。    
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