【1】彼の想い🍹𓈒𓂂𓏸

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【1】彼の想い🍹𓈒𓂂𓏸

『アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!…きゃぁぁぁあ!!!!』 無数のペンライトがどよめき、揺れる。 だれでも立てる訳ではない、そのステージ。 努力の積み重ねのうえに、輝く場所はある。 そこへと向かう彼らの中の1人、シュウがコチラの方を振り向き、ひとこと叫んでから小走りで他のメンバーを追いかけた。 「マネージャー!オレ、あの話本気だから!」 やれやれ、シュウには困ったものだ。 僕だって自分がマネージャーとして担当するアイドルが、こんなに大きなステージに立てるようになるなんて喜ばしい限りのはずなんだが…今回は問題を抱えていて、複雑な気持ちでツアーのラストを彼らと迎えている。 まずは、なにより今日のステージが無事に終わるよう集中しなければ…。 ※※※ 約半年前、季節は冬。ツアーの打ち合わせ中にシュウと一対一になることがあった。 真冬なのに、いつも通りシュウはレモンスカッシュを飲んでいる。 意志が強いシュウのことだから、何かしらこだわりがあるんだろうなと思い、深く追求したことはなかった。 そこで突然、シュウの爆弾発言が投下された。 「オレ、このツアーが無事に終わったら、彼女にプロポーズするから」 「…は?」 「本気だよ、オレの性格知ってるからわかるだろうけど、止めても無駄。決めたから」 本当はマネージャーとして全力で止めなければならない大事件なんだが、シュウをうちの社長がスカウトしてきて以来、付きっきりで過ごしてきた。 シュウの性格は熟知しているつもりだ。 その上で、この発言。返す言葉がなかった。 どんな理由を大人として僕が取り付けようとも、シュウは決めたらやり遂げる。 僕が1番よく知っている。 だからこそ、返す言葉がなかった。 さて、シュウがそう打って出たとして、僕もマネージャーとして、大人の男として、なんとかそれを回避しなければならない。一体どうしたものか…。 どんな手を打つか悩んでいるうちに、ツアーも始まってしまい、今日に至る。 もう、事務所本社ビルの外でも暑苦しいほどにセミが鳴いている。 ※※※ シュウは、ある日突然うちの社長がスカウトしてきた。 社長がそろそろデビューさせるつもりで準備を進めていたグループに、どうしてもこの子も必要だと言い出した。だが、グループはデビュー目前。 シュウは歌もダンスも未経験者。引き受ければ、この子は短期間に死にものぐるいで他のメンバーに追い付かなければならない。 どうしてもと言う社長に、シュウはまさかの交換条件を出して事務所と契約をした。 「オレには彼女がいます」 さすがの社長も一瞬、眉間にシワが寄った。 シュウは顔色ひとつ変えずに、大真面目に続けた。 「別れなくてもいいと社長に言ってもらえるのなら、デビュー日までにどんなレッスンでもこなして他のメンバーに恥じることのないようなオレになります。約束します」 どちらかというと幼い可愛らしい顔のシュウからは、想像つかないような大胆でいて妙に説得力がある言葉たち。 それこそ、社長が見抜いた人を惹き付ける才能なのかもしれない。渋い顔のまま、社長がシュウに言う。 「君がグループに必要なんだ。別れなくても…いいだろう」 シュウがやっと一瞬顔の表情を緩めて返事をする。 「ありがとうございます!約束は守るんで、見ててください。頑張ります!」 そうは言っても今日から、仮にデビュー前でも彼はアイドルのたまごになるのだ。補足で約束事を決めた。 デビューして軌道にのるまでデート禁止。 例外なので、他のメンバーにも口外禁止。 普通の人なら躊躇しそうな内容だが、シュウは「どうせその時点までオレにそんな余裕ないでしょ」と現実を悟った様子だった。 見かけによらず冷静で肝も座っているのか。 やっぱり社長の目は確かだ…。 グループでは、その愛くるしいビジュアルから愛嬌担当である。その反面、話せばしっかりしていて大胆なことにも躊躇せず挑戦するギャップが固定ファンを掴んで離さない。 そんなシュウの性格が魅力的でもあり、ときおりマネージャーである僕を困らせる。 「オレ、このツアーが無事に終わったら、彼女にプロポーズするから」 なんの仕事をしていても、シュウのあの発言が頭から離れない。なんとかしなければ。 でも何度思い出しても、答えは決まっている。シュウは決めた予定を変更する人間ではない。 そもそも、今日まで頑なに社長と僕との約束を守り続けてきたシュウがプロポーズする事を決めるということは… 何かしら彼女の方にも変化があったのだろうではないかという、僕の勝手な推測。 シュウは3年ぶりのオフで帰る、地元の花火大会でプロポーズする、最高のデートにすると言っていた。それは、もう週末に迫っている。 もう、僕にできることはあと1つくらいしかない…。ついに重い腰をあげて、僕は"出張"という名目でシュウの地元へ向かう。 なぁシュウ、僕のおせっかいを 「仕事だもんね」といつもみたいに 笑って許してくれるか?
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