落園愛歌

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 神代、リエントに刃向かった悪神デーヴァ。それと同じ銀色の髪を持つからという理由だけで、顔も知らぬ実の親に神殿の前へ裸同然で置き去りにされたセアラを拾ったのは、ニーアだった。  彼女は邪神と同じ色の赤子に、楽園の古語では『祝福されし子』という意味を持つセアラの名を与え、我が子のように可愛がって育てた。  神殿で最高位に立つ0の巫女が、邪神の色を持つ娘を慈しむ事に、管理者は良い顔をしなかったが、誰も口出しを出来る立場ではない。神殿の奥、自然の光景を出来る限り取り入れた箱庭で暮らす、自由の少ない巫女の道楽として、目を瞑ったのである。  アカギとはその頃からの付き合いだった。物心ついたセアラが見た少年は、まだセアラと三つ四つほどしか変わらない年齢だというのに、常に無感情、無感動で、セアラが鬼ごっこやかくれんぼに誘っても、 『おれは君の相手をするほど幼稚じゃあない』  などと淡々と突っぱね、木陰に腰を下ろして、神殿の上層部を目指す十五歳以上の生徒が読むような指南書のページを繰っていた。  彼が己を押し殺す理由は、セアラが十になって神殿所属の楽園守備隊を育成する教育課程を受け始めた時に知った。  アカギの父は、(アイン)から(フュンフ)までの番号を持つ五人の最高位の『守護者』の中でも、一番の実力を持つ1の戦士だった。当然息子のアカギも、優秀な跡継ぎになるだろうと、周囲から過度とも言える期待を受けて育ってきたのである。  守護者は常に冷静でなくてはならない。情に流され己を見失う事があってはならない。手にした刃を錆びさせてはならない。アカギの両親は、幼い頃からそう息子を突き放した結果、何物にも揺るがない代わりに、子供らしい感情を失った人形のような少年が一人、出来上がった。 『守護者の役目は楽園を守る事だ。一人の人間を守ろうとする君の衝動は、度し難い』  恩人のニーアを傍で守りたくて守護者への道を選び取ったセアラに、アカギは相変わらず淡泊にそう告げ、見事セアラを激怒せしめた。その後も事あるごとに二人はぶつかり合って、意見の食い違いを見せた。  そんな二人の仲裁に入ったのが、二人と同じチームを組まされた、ノーマ、カノン、ヴァンの三人だった。 「また君達は。アカギはセアラに冷たすぎるよ」  アカギとは対照的に温厚で人当たりの良いノーマが、まず二人を窘める貧乏くじを引く事が多かった。 「あたしはどうでも良いけど、成績に影響が出るのは困る」  セアラより年下の、八歳という幼さで守護者育成の道へと進んだカノンが、最年少に見合わぬ態度でぼそりと洩らせば。 「まあまあ、折角のチームなんだから、仲良くやろうさ、仲良く」  守護者候補として大丈夫なのだろうかというほどに喜怒哀楽をころころ顔に出すヴァンが、からりと笑ってみせるのだった。  1から5の守護者は数年に一度、全員いっぺんに交代が行われる。魔物との戦いや任務中の事故で誰かが命を落として欠員が出ても、補充される事は無い。それはチームとして成立した守護者同士の相性に重きが置かれているからであった。  守護者になる人間は、異能をひとつ持つ。火、水、風、地、光。楽園を構成する五元素を操る力を生まれつき授かった守護者候補は、この五元素を等しく分する為にチームを組まされ、五人の相性が最も芳しく機能するチームが、次の守護者として選ばれる。  セアラは紫の炎、アカギは緑の風刃、ノーマは青い水の長剣、カノンは白き光の矢、そしてヴァンは黒い槍を武器に、見習い守護者として訓練にいそしんだ。時に、五元素を割り振った他のチームと手合わせをしたり、時に、見習いとはいえ実戦での機能を見定める為に、魔物との戦闘に駆り出されたりした。その時、私生活でのぶつかり合いが嘘のように、セアラ達は驚くべき連携を見せた。
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