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そしてまた巡り会う
「紫!」
自分の名前を呼ぶ声が聞こえて、瀬良紫は足を止め、肩までの黒髪を揺らしながら、背後を振り返った。
同じ高校の制服を着たクラスメイト、狩野萌と伴大翔が、手を振りながら追いかけてくる。
「もう、一緒に帰ろうって言ったのに、紫ったら先に行っちゃうんだもの」
紫の前に立った萌は、少しばかり息を切らせながら、小さな背丈に精一杯出来る限りの力を込めて、恨みがましそうに紫を見上げてきた。
「だって」
邪魔をしては悪い、と思ったのだ。萌と大翔が最近付き合い始めたのは知っている。いくら小学生の時からの仲良し三人組といえど、自分があまりにも遠慮無しでは、二人きりの時間を奪ってしまう。そんな無神経な友ではいられない。紫なりに考えて、少し距離を置こうと思ったのだ。
だが、少女のそんな気遣いも何処吹く風、萌と大翔はにこにこ顔で紫の肩を両側からばしばし叩くのである。
「あ、もしかして紫、オレ達に遠慮してる?」
「そんな事、しなくていいのよ。隣の駅前に美味しいケーキ屋さんが出来たの。一緒に行こう」
何の後ろ暗い感情も無い笑顔で腕を引かれれば、断る訳にもいかない。溜息ひとつつきながら、歩き出そうとした時。
どん、と。
横様に突っ込んできた何かに突き飛ばされ、紫は歩道に尻餅をついた。肩にかけていたスクールバッグが投げ出され、ファスナーが開いていたせいで、中身が散らばる。
「紫!」「大丈夫!?」
大翔が慌てて紫を助け起こし、萌が散らばった文房具やパスケース、スマートフォンを拾い集めていると。
「おい、このクソガキが!」
いかにも柄が悪いです、といった、頭の足りなさそうな語調の男が、マウンテンバイクから降りもせずに、紫達に怒鳴りつけた。
「何、道の真ん中でチンタラしてるんだよ! 俺様の可愛い『愛宕ちゃん』に傷がついたら、どうしてくれるんだァ? 修理代百万払ってくれるのか? 百万をよォ!?」
ここは歩道だ。自転車は車道に通行線が引かれている。そこを通らずにど真ん中を走ってきたのはそちらではないか。紫が言い返すより先に、萌と大翔が口を開きかけた時。
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