落園愛歌

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 好意があるのか。存在するのは嫌悪か憎悪だけか。  それがはっきりしないまま、セアラ達の関係が変転したのは、その数ヶ月後だった。  セアラ達のチームが、正式に守護者として選ばれたのである。  そして任命式で1から5の番号を割り振られた時、神殿奥の礼拝堂で行われた式典の場は、驚きにどよめいた。 「セアラ。汝を(アイン)の守護者に任命する」  赤いローブを着た、神殿管理者のひょろ長い神官が辞令を高々と読み上げた途端、仲間達と共に膝をつき胸に拳を当てて頭を下げていたセアラは、思わずその(おもて)をがばりと上げてしまった。神官はセアラの不作法に一瞬眉間に皺を寄せたが、特段取り合わず辞令に視線を戻すと、続きを読み上げる。 「(ツヴァイ)にはアカギ。(ドライ)にはノーマ。(フィーア)にはカノン。(フュンフ)にはヴァン。それぞれを任ずる」  ざわめきが更に大きくなった。アカギが父親と同じ1の戦士としての座に就くだろうと、この場にいる誰もが――セアラも、恐らくアカギ自身も含めて――思っていたので、この采配には驚きを隠せなかったのである。 「セアラが1?」 「アカギを差し置いてか?」 「邪神の色を持つ小娘ごときが」 「あれだ、0の巫女の庇護を受けているからだ」 「七光りで守護者の座を奪い取ったな」  遠慮会釈無い悪意を込めた囁きが、聞こえよがしに交わされる。蔑まされる事にはもう慣れた。だが、誰かが続けた不調法な言葉には、流石に心臓がぎゅっと締めつけられた。 「まあ、守護者として前線に立って、早々に死んでくれれば、巫女の酔狂も片付くだろうよ」  ぐっと唇を噛みしめる。逸る心臓に当てる拳に力を込めて、騒ぐな、落ち着け、と言い聞かせる。  考えれば簡単な事ではないか。0の巫女が気まぐれで育てた邪神の色を持つ子は、楽園にとって落ち度以外の何物でもない。守護者は楽園を守る先鋭として最前線に立つ。どんなに強いといえど、戦いで命を落とした者の数は、楽園数百年の記録を紐解けば、数人では済まない事は証明される。彼らはセアラの名前が一日も早くそこに載る事を望んでやまないのだ。  だが、そこで折れるほどセアラの心は(やわ)いものではなかった。ならば、と反発する。  生きてやろう。1の戦士として恥じない戦いをして、ニーアを守り通し、生き抜いてやろう。  セアラが決意している間に、女官達が五人分の真新しい白のローブを運んで来る。白は守護者だけがまとう事が出来る色だ。まだ糊のきいたそれに各自が袖を通し、膝下まで翻る裾を払って屹立する。 「汝らの働きに期待している」  神官が辞令の紙を畳んで、新たなる若き守護者達を見回す。セアラ達五人は深々と頭を下げ、楽園への恭順の意を示す、心臓に近い左手を唇に押し当てる礼を取るのだった。
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