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「――アカギ!」
式典後の廊下で、セアラは彼を呼び止めた。後片付けに慌ただしく立ち回る人々の邪魔にならないように、振り返る彼の袖口を引いて横道に逸れる。
「あ、あの、その」
言う事はただ一つなのに、それが上手く音をなさない。普段心を強く持とうと『紫炎のセアラ』を貫いている身が嘘のようだ。
だが、アカギも鈍い人間ではない。
「別に君が気に病む事ではないだろう」
こちらの言わんとする事を把握した様子で、深々と溜息をつく。
「君の方が実力が上だった。俺が劣っていた。だから2になった、それだけだ。事実は変わらない」
だがセアラは、それで大人しく納得できる性分ではない。「でも」と言葉を重ねようとすると。
「それ以上を口にしないでくれ」
アカギが、ずっとつかんでいた袖からセアラの手を振り払い、すっと背を向け、こちらを向かないまま、ぽつりと洩らした。
「……俺が惨めになるだけだ」
まだ染みひとつ無い白ローブの裾を翻して、彼の姿が遠くなる。セアラの手は、虚空をつかんだまま固まっていた。
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