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湖を縦断しているとはいえ、そもそもが大きいので渡り切るのにかなりの時間を要した。それでも美しい風景を見ながらだとあっという間に感じる。
《こっちよ》
《この森の奥を進むの》
《もうすぐ到着よ》
湖の反対側へと続いている森は、ティナが通って来た森とはまた違う雰囲気を醸し出していた。
神聖で静謐な空気が流れていて、まるで別世界のような錯覚を覚える。
「ここってまるで<神域>みたい……。いや、違う。もっと……」
大神殿の奥の<神域>は、聖女や大神官が祈祷を捧げる祭壇がある場所だ。ティナはこの場所に<神域>と似た雰囲気を感じ取る。
しかしこの奥から感じるのは、もっともっと強い<聖気>だ。
《ほら、到着したわ!》
《これは精霊樹よ》
《精霊が生まれる場所なの》
「……っ! ……す、すごい……綺麗……」
ティナは目の前に広がる光景に絶句する。
大きな木にいくつもの実がなっていて、その全てが淡く光を放っているのだ。
暗闇に覆われた森の中で、温かい光を灯す大樹はまるで、希望のようだとティナは感じた。
暗い夜空に光を追い求めてしまう人間の本能が、そう思わせたのかもしれない。
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