第十七章 春まだ遠く

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 うむ、と修造は口を引き結んだ。  ひと息ついてから、 「ああ、ところで」  と今度は修造が切り出した。 「なんだ」 「今度、中学の同窓会があるそうだ」 「俺は出ないよ」麒一郎は即答した。 「なんで」 「高校入試で失敗して浪人したの、俺だけだからな。バツがわりいや」 「そんなこと気にする年齢(とし)かよ」 「いいんだ。仕事もあるし」 「タイヤは交換したのか」 「もちろん。ここは都会とは違うからね」 「身体、大事にせえよ」 「おう、忙しいところ悪かった。じゃあな」  麒一郎が外に出たとたん、冷たい風が勢いよく吹き込み、顔を拭っていった。 「寒っ」麒一郎は思わず俯き背を丸め、風を避ける。  数歩進んだあと、思い出したようにゆっくりと顔を上げる。  灰色の雲が、彼方にある山の上空を、ものすごい速さで流れていた。 「お山よ、お前さんもたいへんだな、見た目は昔から変わんねえけどよ、なんもしゃべんねえけどよ、いろいろあったんだべ。がんばってるよなあ」  麒一郎は山に向かって呟いた。                                (了)                              
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