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うむ、と修造は口を引き結んだ。
ひと息ついてから、
「ああ、ところで」
と今度は修造が切り出した。
「なんだ」
「今度、中学の同窓会があるそうだ」
「俺は出ないよ」麒一郎は即答した。
「なんで」
「高校入試で失敗して浪人したの、俺だけだからな。バツがわりいや」
「そんなこと気にする年齢かよ」
「いいんだ。仕事もあるし」
「タイヤは交換したのか」
「もちろん。ここは都会とは違うからね」
「身体、大事にせえよ」
「おう、忙しいところ悪かった。じゃあな」
麒一郎が外に出たとたん、冷たい風が勢いよく吹き込み、顔を拭っていった。
「寒っ」麒一郎は思わず俯き背を丸め、風を避ける。
数歩進んだあと、思い出したようにゆっくりと顔を上げる。
灰色の雲が、彼方にある山の上空を、ものすごい速さで流れていた。
「お山よ、お前さんもたいへんだな、見た目は昔から変わんねえけどよ、なんもしゃべんねえけどよ、いろいろあったんだべ。がんばってるよなあ」
麒一郎は山に向かって呟いた。
(了)
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